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三年生編 第112話(4) [小説]

横山くんと話している間に、少しずつもやもやが固まって
きた。
なくなったんじゃなく、どかせない塊として固まった。

くすぶってしまったエネルギーが使えないことを後悔する
んじゃなく、それを次にどう使うかを考えろ。
会長の「もうアルバムに貼ったら」というのは、そういう
ことなんだろう。
中庭に直接エネルギーを注ぐ機会はもうないんだ。
それなら、どうすればいい? 

「さて、と。鈴ちゃんも言ってたと思うけど、プロジェク
トってのは形がないんだ。こうしたいああしたいっていう
たくさんのエネルギーを集めて、こんちくしょうってそい
つらと喧嘩しているうちにだんだん庭の形ができてく。型
とかマニュアルがないの」

「うん」

「そういうのが合う子も合わない子もいる。あまりかっち
かちにプラマイ考えないで、入ったり抜けたりしてみて。
プロジェクトは出入りを拘束しないから」

ちょっと考え込んでいた横山くんが、わずかに頷いた。

「そうします」

「それとね」

「うす」

「自分が小さいってのをネガに考えないでね」

「え?」

そこも誤解されてるんだよなー。はあ。

「ぼっちの僕は小さかった。何もできなかったんだ。だか
ら出来る子にいっぱい手伝ってもらったの。僕が大きかっ
たら、庭は再生しなかった。校長に睨まれてたからね」

「う……はあ」

「いんだよ。できることなんか少しで。それよか、目一杯
楽しんでくれた方がいい。楽しいと、その次を考えられ
る。プロジェクトってのは、楽しさ探しの場所の一つに過
ぎないんだ。で、自分が小さいほど楽しさ探しをしやすい
の」

足元にぽよぽよ生えてる草を指差す。

「それ、ザクロソウっていうんだけど、ものっそ小さくて
細っこい草でね。雑草抜く時に見落とすから、どうしても
残っちゃう。でも、裏返せば小さくて目立たないから抜か
れないってことでしょ?」

「あ……」

「小さい方が、生えられる場所がいっぱいあるんだ。そん
なもんだと思うよ」

◇ ◇ ◇

僕もそうだったけど、一年の時は三年生が神様に見えた。
自分が小さくて無力に見えたんだ。

でも、三年の僕が大きく立派になったか?
いや……大して変わらない。
プロジェクトリーダーという立場を降りた今、特にそう思
う。小さいなあって。

でも、大きければいいということも、小さいからダメだと
いうことでもないんだ。
大小それぞれの立場でできることがあり、そうすることで
自分を満たせればいい。
足りなければ大きくすればいいし、持て余すようなら小さ
くすればいい。

そして……則弘さんが勘違いしてるみたいにずっと小さい
ままではいられないし、引退した伯母さんのようにずっと
大きいままでもいられないんだ。

それなら。
僕は最後の学園祭で、自分の大きさを考えることにしよう。
誰かのためじゃない。僕自身のためだ。
これまでと、今と、これからの、自分の大きさを考える。

うーん、こんな辛気臭いことを考えながらお祭りに行くや
つが他にいるんだろうか。
苦笑しながら、モニュメントの柱をぽんぽんと叩く。

お? 誰か来たな。ああ、中沢先生か。
元気のない横山くんを見て、気になったんだろな。

「なんだ、工藤くんか」

「あれ? ひーちゃんじゃありませんか」

「その呼び方はやめろおおおおっ!」

いじられてもだえている中沢先生をにやにやしながら見て
いたら、先生がふっと振り返った。

「拾い損ねたか」

「ああ、彼ね」

「フォローしてくれたの?」

「フォローしてほしいのは僕の方ですよ。僕だって同じだ
よって言っただけです」

「なるほどね」



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mitu

小さいのをネガに考えないようにします(^^♪
by mitu (2023-03-14 10:27) 

水円 岳

>mituさん

コメントありがとうございます。(^^)

誰からも無視されるのは悲しいですが、誰からも
敵視されるのはもっと大変かも。
そんなことをちらっと考えつつ、小さいままこそ
こそと好きなことに没頭してます。(^m^)


by 水円 岳 (2023-03-14 23:25) 

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