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三年生編 第112話(3) [小説]

マイ剪定鋏を取り出して、植え込みの徒長枝を整えていく。
ぱちんぱちんという小気味いい音が、静まり返っていた中
庭に弾け飛ぶ。

もうお祭りは目前だ。
お祭りを盛り上げる熱を今から起こすのは無理。
でも、だからと言ってこのまま冷めてしまいたくはない。
つまらないと思ってしまう気持ちを摘み取るように、しば
らく剪定に集中していた。

「おや?」

背後に人の気配がして、ふっと振り返った。
中庭に入ってきたのは小柄な男子生徒。一年生だろうか。
見るからにつまらなそうだ。
さっきまでの自分も他の子からあんな風に見えたのかなあ
と思うと、げんなりする。

男の子は、むすっと黙り込んだままベンチにどすんと腰を
下ろし、そのまま顔を伏せた。
どう見ても、はみってる感じだなあ。

「ちわー」

声をかけた。

「あ、工藤先輩」

「え? 僕を知ってるの?」

「あ、部員です。横山です」

そっか。部員だったのか。

「ごめんね。一年生の部員はすごく多いし、さみだれ式に
入ってきたから、なかなか名前把握できなくて」

「いや……いいっす。はあ……」

見るからにおとなしそうな子だ。
男子部員は少ないからすごく目立つし重宝されると思うん
だけど、女子のハイパワーに付き合い切れてない感じがす
る。ちょっと先回りしようか。

「横山くんは、部活がなんかしっくり来ないと思ってる。
違う?」

「……」

しばらく黙っていた横山くんが、ぼそっと答えた。

「部活じゃなく、ここに……高校に合ってない気がするん
です」

「ふうん。ぽんいちにってこと?」

「いや……高校っていうもの自体に」

「ああ、わかる」

「そうすか?」

あんたは全力でエンジョイしてるじゃないか。
そういう疑念と批判のこもった暗い返事だった。

「僕だってそうさ。何も期待してなかったからね。ここだ
けじゃなく、自分の未来にも」

「……」

「誰も、何もしてくれない。それが中坊の僕だったし、そ
の気質はあんまり変わってないかな」

「……信じられないっす」

「ははは。嘘なんか言ったってしょうがないよ。実際、そ
れが元でさっきまでがっくり落ち込んでたし」

「え?」

今度は、僕が頭を抱え込んででかい溜息をつく。

「はああっ。大失敗したんだ。何もしてくれないなら、自
分でやるっきゃない。そこまではよかった。で、ハード
ガーデンプロジェクトの活動を軌道に乗せるまでは全力で
突っ走った」

「……」

「ただ、鈴ちゃんたちに引き継ぐ時、ちゃんと自立させよ
うと思って全部手を放しちゃったんだ。始めたのが僕なん
だから、僕は最後までやる! 出発点がエゴだったんだか
ら、最後までエゴを通せばよかったんだ。でも……」

左手に握り込んでいた切り枝を植え込みの下に突っ込む。
枝はゴミじゃない。
ちゃんと分解して、植物の役に立つはず。

でも、それは外から見た人の考えなんだ。
切り捨てられた枝は必ず抗議するだろう。
あんたになんの権限があって、俺たちをどかすんだって。

切り捨てられた枝は、切り捨てた人に文句を言える。
でも、加害者と被害者が同じだったら?

「自分から主人公の位置を降りてしまった。それは誰のせ
いにもできない。馬鹿みたいだ」

顔を上げた横山くんが、じっと僕の顔を見ている。

「わかんない……もんすね」

「そ。でも、割り切るしかないよ。黙ってても、ここには
三年しかいられないんだ。それなら、中坊の時の後悔を
しょうこりもなく繰り返したくないなー」

「後悔、すか」

「うん。何もできなかっただけじゃなく、何もしなかった。
そういう後悔」



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mitu

「あんたになんの権限があって、俺たちをどかすんだ」

 昨日、イチジクとオリーブの枝を大量に剪定したので
枝たちの抗議が聞こえてくるようでした
「枝はゴミじゃない。
 ちゃんと分解して、植物の役に立つはず。」
狭い庭に大きく育つ木を植えたことが大間違いでした(^^ゞ


by mitu (2023-03-14 10:23) 

水円 岳

>mituさん

コメントありがとうございます。(^^)

庭植えの木はどうしても剪定が必要になります
ものね。(^^;;
でも、ナチュラルな状態でも生えている枝の盛衰
はあるので、仕方ないかなあと。

職場の二十メートル以上あるシラカシの大木も、
近隣への危険性を考えて明日ばっさり強剪定されます。
直後はまるで丸太みたいな姿になってしまいますが、
ちゃんと復活するんですよね……不思議です。

by 水円 岳 (2023-03-14 23:21) 

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