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三年生編 第112話(1) [小説]

10月7日(水曜日)

あのあと。
しゃらの家で家族会議が開かれ、伯母さんの手を煩わせる
ことは大変申し訳ないが、現状では則弘さんのケアをでき
る余裕が全くないため、身元を引受けてくださるのは大変
ありがたいという結論になったらしい。
背に腹はかえられないよね。僕もそれしかないと思う。

御園家の意向確認を済ませた伯母さんの行動は、いつもの
ようにとても素早かった。
食い逃げなら被害額はたかが知れてるし、普通なら弁償と
厳重注意で放免になるらしいんだけど、伯母さんはそこに
弓削さんに手を出した前科を並べたんだ。

再犯なら起訴を猶予してもらえなくなる。
窃盗だけでなく強制性交等罪が加算されたら、微罪では済
まない。
再犯は全く反省していないってことだから、裁判官の印象
は最悪になる。
起訴されれば実刑間違いなしだし、短期刑にもならない。

「あんたみたいなへたれが前科持ちになったら、本当にど
こにも居場所がなくなるよ。人生詰んじゃうけど、それで
いいんだね?」

寄生虫として生きるなら、少なくともその虫がひどく悪さ
をしないという前提がどうしても必要になる。
でも則弘さんは、十分ヤバいことをやらかしているのに自
覚が全然ないんだ。
伯母さんは、その矛盾をきっちり突きつけた。

「確かに、ワルにはワルの居場所がある。でも居場所が作
れるのはワルを誇れるやつだけよ。ワルを誇れないチキン
な前科者が潜り込める暗闇なんかどこにもない。鉄砲玉に
すら使えないクズを誰が抱え込むっていうのよ。そんな
の、おん出されたアンタが一番わかってるでしょうに」

タカのどやしすらスルーした則弘さんも、伯母さんの出し
たレッドカードは回避できなかった。
逃げ場がどこにもないことを認めるしかなかったんだ。
ドナドナ状態で、則弘さんの海外島流しが決定。
速攻で、伯母さんのボディガードに両脇を抱えられて中塚
家から強制退去となった。

俺の顔に泥を塗りやがってと、則弘さんを殴り殺さんばか
りの怒りようだったタカも、伯母さんの強権発動には度肝
を抜かれたらしい。
俺らとはスケールが違うと妙に感心していたそうな。

はははのは。

しゃらには言ったんだけど、永久追放じゃないんだ。
互いに落ち着くまでの緊急避難に近い。
その間に、新しい生活に慣れないとね。

中塚家にとっても仕切り直しだ。
タカのいらいら材料がぐんと減って、五条さんはほっとし
てると思う。

ということで。
突発的に発生した則弘さんのトラブルは、さっと潮が引い
た。
その空いたスペースに、ここのところ僕の中でずっとくす
ぶっていたもやもやが、またぞろ流れ込んじゃった。

「うーん……」

確かに会長の言う通りなんだよね。

『プロジェクトの活動を後輩に引き継いだのなら、プロ
ジェクト関係のことはもう思い出アルバムに貼ったら?』

ぐうの音も出ないほど、お説ごもっとも。

でも僕は、まあだもやもやを引きずってる。
理屈の上でどんなに納得しても、心の中の反乱分子が大人
しくなってくれない。

だらしないやつだ。最後まできっちり突っ込めよ。
このぼけが!

喚きながら暴れ回る僕がどこかにいて、そいつを
どうしても抑え込むことができない。

でも、僕が突っ込みたくたって、もう突っ込める場所はど
こにもこれっぽっちも残っていないんだ。
それが最後の学園祭を無心で楽しもうっていう気持ちに冷
水を浴びせる。心が……冷めちゃう。

最後の学園祭に、こんな中途半端な気持ちで突入しちゃう
のは嫌だなあ。



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