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三年生編 第109話(12) [小説]

「どうだった?」

三時過ぎ。家に帰って早々に、母さんに確かめられる。

「いいお披露目だったよ。中沢先生の挨拶はぐだぐだだっ
たけど、かんちゃんのはぴしっと筋の通ったいい挨拶だっ
た」

「御園さんのお父様もほっとしたんじゃない?」

「そうだね。将来、かんちゃんに店を引き継ぐっていうこ
ともきっちり宣言したし。商店街の人たちも、くしの歯が
欠けなくて良かったって、ほっとしてるんじゃないかな」

「くしの歯、かあ……。世知辛いね」

「うん。商店街の人たちって、お互いのつながりが強い分、
そこが崩れ始めるとがたがたっと行ってしまいそうで怖い
んだよね。がんばって欲しいなーとは思うけど」

切れるつながりより、新しいつながりの方が多くなってほ
しい。
本当にそう思うけど、現実はその逆になっているような気
がする。

坂下の商店街は、現実として少しずつ寂れてる。
人と人とのつながりも、少しずつ切れていく。

いや商店街のことだけじゃないよね。
僕自身もそうなんだ。
楽しかった高校生活はもう少しで終わりだ。
高校でたくさん築いた友達との関係は、そこで一度リセッ
トされる。
それに……進学すれば、家を出る僕は家族とのつながりが
緩くなる。

勘助おじちゃんが亡くなって、工藤の方も斉藤の方も、親
族の結束が緩くなってくるだろう。
健ちゃんたちや滝乃ちゃんたちと、いつまでざっくばらん
な話ができるかわからない。

もちろん、新しいつながりを作ることで、切れたつながり
のほころびは埋められると思うけど。
宝物のように抱きしめてきた人と人とのつながりを、ずっ
と変わらずに保持し続けることはできない。

わかってる。
それは僕だけでなく、誰にもできない。
でも……できないってことがどうしようもなく寂しい。
そう感じてしまうんだ。

「ん?」

リビングの窓が風で揺れて、がたんと音を立てた。
意識が現実に戻る。

いかんいかん。どうしても考えが後ろ向きになっちゃう。
切り替えなきゃ。

「ご飯までは勉強する。学園祭前は落ち着かないから」

「そうね。準備が出来たら呼ぶわ」

「うい」


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