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三年生編 第109話(11) [小説]

「すげー」

全員で絶句。
なんつーか、本当の自由人てこういう人のことを言うのか
なあという感じで。

で、気付いてしまった。
先生が来る前に僕らがポーズっていう話をしてたけど。
先生にとってのポーズ……ぐうたらとか、突き放した言動
とか、乾いた態度とかは、全部おじさんのコピーだったん
だなあって。

確かに、乾いた飄々とした態度は人との距離を確保しやす
い。
下心のあるやつとか、やたらと馴れ馴れしくしてくるやつ
から離れられる。
でも先生のそれはあくまでもポーズであって、本質じゃな
いんだ。

コミュニケーション能力に激しく難のあるちゅんさんに倒
れ込んだみたいに、先生の芯は強烈な寂しがり屋なんだろ
う。
先生は、ポーズを乗り越えて来てくれる人か、ポーズを捨
てたいと感じる強い引力がある人にしかアクセスできない。

だから、難のあるちゅんさんやかんちゃんが恋愛の相手に
なったんだろうなと。
改めてそう思う。

もちろん、それは僕としゃらもそうなんだろう。
自分が壊れる寸前まで孤独だったから、過去の共通点が悪
い意味で重なっていたのに互いに倒れこんだんだ。
ポーズを……かなぐり捨ててね。

本当にそれでいいのか。本当にもう大丈夫なのか。
懸念がないわけじゃない。

でも、僕らは変わってる。
あの頃とは違う自分に、少しずつ組み替えてる。
ポーズを前に張り付けなくても、ナマでやり取りできるよ
うになってる。
それでいいんだろうし、それがきっと責任ていうやつなん
だろう。

「先生。利英さんて、一緒に暮らしてた時もあんな感じ
だったんですか?」

しゃらがこそっと聞いた。

「うーん、あんなにしゃべったのは聞いたことないなあ」

「ひええ」

「なんかね。こっちから動かない限りは置物なんだ」

「あ、わかる」

僕がフォロー。

「先生が自発的に何か言い出すまで、手も口も出さないっ
てことですね」

「そう。まあ、めんどくさいってのもあったんだろうけど」

「めんどくさい?」

「そりゃそうでしょ。年頃の女の子とどんな会話するって
いうわけ?」

確かになあ。
僕らだって、女子トークの中には入れないもんなあ。

「まあ、居心地はよかったよ。それを失ったらどうしよ
うっていう恐れはあったけどね」

「あ、そうか。大学進学の時ですね」

「うん。その時だけ、叔父さんに言われたんだ」

「なんて、ですか?」

女子が揃って身を乗り出した。
明日は我が身だもんなあ……。
あ、僕もか。

「本当に嫌いなやつがまだいないなら、まずいろいろと飲
み込んでみろ。嫌ならぺっと吐き出せばいいって。まあ、
何事も経験してみないとわかんないってことだよね」

その頃のことを思い出したのか、先生がふっと笑った。

「確かに思う。経験しないと踏み込めないことがあるなっ
てね」

それから、さっとかんちゃんの腕を抱え込んだ。
ううー、ごちそうさまですー。


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