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三年生編 第109話(9) [小説]

利英さんは、ヒゲだらけの顔をぞりっと手でなぞった。

「俺みたいな連中が溜まってる、デザイナーズギルドって
とこがあってね。置屋みたいなもんだ。そこに来る注文
を、えいやっとさばくわけ」

「へえー」

「仕事は不定期で稼ぎが安定しないし、仕事時間なんてい
う概念はないし、しょっちゅう家を空けるし。瑞宝を後見
しろって言われた時にはどうしようと思ったけどね」

先生が苦笑い。
でも、そのあと真顔でフォローした。

「大野先生は、一番辛かった時にわたしを抱え込んでくれ
た。でも、その時に甘え癖がついちまったんだ。叔父さん
は、わたしの首についてたガイドロープを解いて放牧した
の。だから……立て直せたんだよね」

「そらそうさ。最後まで抱えていられるやつなんかいない
よ。どこにもね」

利英さんが、ふっと目を細める。

「自分の面倒くらい、自分で見ないとさ」

「うん」

先生が、神妙な顔で頷く。

「ただ」

利英さんが、顔をしかめた。

「だからって、なんでもかんでも一人で抱え込んで欲しく
ない。そこは誤解しないでほしい」

「わかってる」

頷いた先生を見て、利英さんが僕らを見回した。

「君らは、瑞宝の昔のことは知ってるんだろ?」

「知ってます」

「じゃあ、話が早い」

ぐんと体を起こした利英さんは、通る声で恐ろしいことを
口にした。

「実の娘の瑞宝に手をかけようとした鬼親は、あと数年で
シャバに出て来るんだ。一生刑務所の中にいて欲しいんだ
が、俺らが刑期を決めるわけじゃないからね」

あ……。

「その時、あいつらに俺らの生活をめちゃくちゃにされる
わけにはいかない。絶対にな!」

唇を噛み締めた先生が、大きくかぶりを振った。

「瑞宝と共同戦線を張る。一人でなんとかしようと思うな
よ。どういう手段を使っても、あいつらとは縁を切る」

直接被害を受けてる先生はともかく、利英さんの拒否反応
は強烈だった。昔なにかあったのかな。
僕の視線に気づいたんだろう。
利英さんが皮肉っぽい薄笑いを浮かべた。

「兄貴に殺されそうになったのは瑞宝だけじゃないのさ。
俺もなんだよ。ガキの頃から、兄貴に命に関わりかねない
攻撃をされ続けててね。唯一の天敵なんだ」

ぐええっ。え、えぐい。

「俺は人を好き嫌いで分けたかない。まあ、でこぼこあっ
ても人ってのは総じて好きなんだよ。でも、どうしても許
容できないやつはいるんだ」

先生がぐんと頷いた。

「それなら、大っ嫌いなやつに全ての恨み辛みを背負って
もらう。そいつからさえ遠ざかることができれば、あとは
屁でもない」

うわ、すごいなあ。

「そこは、俺と瑞宝とで利害が一致するんだ。必ず撃退し
ないとダメだ」

「うん」


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