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三年生編 第109話(8) [小説]

先生が、僕らの隣のボックスに入ったところで、またドア
ベルが鳴った。

「間に合わんかった。済まん済まん」

どたどたと慌ただしい足取りで入ってきたのは、おしゃれ
な着こなしのおじさんだった。

「いやあ、式って言っても挨拶だけ。短かったから」

「まあ、あとで写真を見せてもらうさ」

先生と親しげに話しているおじさんの顔が、どことなく先
生に似ている。もしかして……。

「あのー」

聞こうとしたら、先生から紹介があった。

「わたしが中高の時に世話になってた、叔父貴の利英さん。
わたしゃ、叔父さんには足を向けて寝られないよ」

「何言ってんだか。毎日俺に足を向けてぐーすかねくたれ
てたくせに」

「おじさーん、ばらさないでー」

全員、あっけ。

「うっわ。なんか、先生のクウキによく似てますね」

僕が突っ込んだら、先生がしらっとひっくり返した。

「逆。わたしが叔父さんに染まったの。叔父さん、本当に
自由人だから」

「わははっ!」

からっと笑う利英さん。
そっかあ。こう、なんつーか、細かいことどうでもいいみ
たいな、自由な雰囲気。
結婚式に出るって言う割には服はカジュアルだし、髪もヒ
ゲもぼさぼさだ。

コーヒーを注文した利英さんは、僕らをぐるっと見回した。

「瑞宝の生徒さんかい?」

「何人かはね。みんな、部活の子たち」

「ああ、顧問やってるんだっけ」

「そう」

「こいつが顧問だと大変だろ」

にやにやしながら利英さんが、先生を指差す。
先生が真っ赤になった。

「いい加減が服着て歩いてるみたいなやつだからなー」

「ばらさないでよう」

「てか、先生。最初はそういうキャラでしたよね」

「む……」

僕の含み笑いを見て、先生がぷっとむくれた。

「そうだけどさー。昔からずっとそうだと思われたくない
じゃん」

「まあな」

利英さんは、それ以上突っ込んでイジらない。
空気がいい意味で軽い。なるほどなあ……。

「あのー、利英さんはどんなお仕事されてるんですか?」

聞いてみる。

「俺かい? フリーのデザイナーだよ。フリーだから貧乏
でね」

「へえー!」

実生が興味津々で身を乗り出した。

「どんなものをデザインされてるんですかー?」

「いろいろだよ。パッケージ、ロゴ、フォント、フォー
ム……なんでもありだ」

「すごーい!」

「いや、すごかないよ。なんでもやらないと食ってけない
から」


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