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三年生編 第107話(4) [小説]

リビングで実生が電話をしてた気配があったから、実生は
まだ諦めていないんだろう。
うん、少しはタフになったかな。

リョウさんの方に当たってる黒ちゃんからも、きっと失敗
報告が来るだろう。
実生と同じで、勝負決着は早かったはずだ。

机の上に置いた携帯を腕組みして見下ろしていたら、携帯
がぶるった。

「黒ちゃんじゃなく、しゃらか」

気後れして、僕に直ではなく一枚かましたってことだろな。
苦笑しながら電話に出る。

「うーい」

「あ、いっき?」

「黒ちゃんだろ?」

「そう。失敗って……」

「そりゃそうだよ。リョウさんが一回でうんと言うもんか」

「はあ!?」

しゃらがぎょっとしてる。

「そ、そうなの?」

「ったりまえだよ。リョウさんがトレマの見習いで働き始
めた時のことを思い返してみりゃいいじゃん」

「あ!」

そう。
あの頃リョウさんは肩にかっちかちに力が入っていて、客
あしらいが全然出来なかった。
でも、その欠点を誰も「言葉で」指摘しなかったんだ。

菊田さんも、松田さんや寺島さんも、大事なことには自分
で気づくしかないって突き放したんだよね。
それなのに僕や会長が余計なちょっかい出しちゃって、後
で小言を言われたんだ。それじゃなんにもならないって。

今回も全く同じだよ。
僕もしゃらも、もうすぐ卒業なんだ。
学校からもプロジェクトからもね。
それなのに僕らがいつまでも後輩のしんどいところを肩代
わりしてたら、ちっとも彼らの勉強にならない。

教わって覚えることと、自分で体験して気づくこと。
どっちが欠けてもうまくいかないけど、僕らが手を出せる
のは教えてなんとかなる方だけさ。
今回の課題は、実生や黒ちゃんが自力でもがいてクリアし
てほしい。

僕の勉強じゃないんだ。
実生や黒ちゃんの勉強だからね。

しゃらにも釘を刺しておく。

「わかってると思うけど、手出し無用だよ」

「ううう、交渉役はしんどそう」

「しんどいのは、実生や黒ちゃんだけじゃないよ。松田さ
んもリョウさんもしんどいんだ」

「え? どして?」

「松田さんは、お子さんを亡くしてる。同じくらいの年の
実生たちを見るのは辛いはずだよ」

「あ……そ……か」

「リョウさんは、菊田さんの栄転でものすごく不安を抱え
てるはずさ」

「ええっ!? えいてーん!?」

ああ、しゃらにはまだ話してなかったか。



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