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三年生編 第106話(1) [小説]

9月29日(火曜日)

高校ガーデニングコンテストの授賞式。
なんか舞台裏を見ちゃったなあっていうがっかり感があっ
たのは確かだけど、それで僕らの活動にけちがつくわけ
じゃない。

一年生たちは他校の子たちと積極的に情報交換してたし、
二年生の男子は大モテだったし。
それなりに盛り上がってたと思う。

僕ら三年生部員にとっては、ある意味有終の美を飾るって
いう感じだったかもしれないね。
どこでも目立つみのんは、女の子たちのアタックからずっ
と逃げ回ってたけど。げははっ!

で、一つ終わればまた一つ。
学園祭間近になってきて、クラスイベもプロジェクトイベ
も準備が大詰めになってきた。

クラスの方は舞台の上での一発勝負だから、準備も打ち合
わせもへったくれもない。

えびちゃんが選んでくれた曲を流して、それに鳴り物を合
わせながら歌う。それだけだからね。
たかだか数分の曲だから、そこで声と音の出し惜しみさえ
しなければ、立水は満足するだろう。

受験勉強のうっぷん晴らしで、全力で弾けてやるって気合
いの入ってるやつが多いから、めっちゃ賑やかになると思
う。それでよし。

問題は、プロジェクトの方だ。
イベントの素案がなかなかまとまらなかったんだよなー。

今年は、最初にプロジェクトの組み直しがあって、新入生
の大量流れ込みがあって、僕と桧口先生との衝突があっ
て、ガーデニングコンテストの参加があってと、どたばた
やイベントばかり続いた。
そのせいで、プロジェクト自体の態勢固めをするのにすご
く時間がかかったんだ。

だから、イベントより先に花壇の設営を急ピッチで進めな
いとならなくて、実務が最優先になった。
御用聞きの必要なイベントが、後回しになっちゃったんだ。
しかもイベ班がコンテストの実査でへまやらかしたことも
あって、みんな尻込みしちゃったんだよね。
夏休み前に企画班に組み直された旧イベ班で何度話し合っ
ても、ぱっとした案が出なかったんだ。

最初は去年と同じで、ノウハウあるからお祭り横丁方式で
行こうという雰囲気だったんだけど、まとめ役の高橋くん
が思い切り良くそれをひっくり返した。

「俺は反対です」

「どして?」

「せっかくがんばって仕立てた花壇を、無神経に歩き回る
お客さんに踏み荒らされるのはまずくないすか?」

「うーん……」

企画班長の黒ちゃんが苦悶する。

「うちの生徒は中庭のことをよく知ってますけど、外から
もお客さん来ますよね?」

そん通し。
高橋くんの懸念したことの他にも、警備とか雨の時にどう
するかとか、いろいろ問題点が多いんだ。

最初のゲリラライブの時には、よくも悪くも一発勝負だっ
た。
『もしも』っていうことは一切考えなかったから、プロ
ジェクトメンバーは全力で楽しめたけど、リスクがすごく
大きかったんだ。ルール違反も含めてね。

去年は逆で、いろいろなことを想定してがっちり備えた
分、プロジェクト部員の負担がぐんと重くなった。
僕ら以外の生徒にはすごく楽しんでもらえたと思うけど、
僕らは楽しみ切れなかったんだ。
イベントサポーターは、主役が映えるように立てないとな
らないから。

どうにかして中庭でお祭りをやりたいというノリのいいグ
ループと、中庭の状態をキープするためにはそこでのイベ
ントを中止した方がいいという実務派とで、真っ二つに割
れちゃったんだよね。

まとめ役の高橋くんが反対派の最先鋒だから、まとまるわ
けないよ。
夏休みが明けたあともずーっとがちゃがちゃ揉めてたんだ。
のほほんの黒ちゃんに、それを力技で裁定できるわけはな
いし。



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