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三年生編 第104話(5) [小説]

ふと気付いたら、外が真っ暗になっていた。
リビングが賑やかになってるから、みんな帰って来たんだ
ろう。

椅子から降り、カーテンを引いてから一度大きく深呼吸を
する。

「ふううっ! もうちょっとしたら、晩飯のコールがかか
りそうだな」

振り返って、机の上を見る。
真っ赤になってる問題用紙は、討ち死にの跡。
記述型の模試は本番までまだ何回かあるから、今日と同じ
失敗をしないようにしっかり備えないとだめだ。

「残りは、晩ご飯のあとにしようっと」

食事コールがかかる前にリビングに降りようとしたら、机
の上の携帯がじこじこ言い出した。

「しゃらかな」

夕食時間にかけてくるのは珍しいなあと思ったら、しゃら
じゃなかった。レンさんだ。すぐに出る。

「もしもし? 工藤ですー」

「レンです。この前はどうもー」

「穂積さんのお見舞いに行かれたんですか?」

「ええ。今日シフトの関係で休みだったので、行ってきま
した」

「どうでした?」

「……」

返事はすぐに返ってこなかった。
それで、穂積さんの状態が相当悪いってことが予想できた。

「まあ……」

レンさんは、そのあとしばらくまた絶句。

「なんというか。今の状態じゃ、誰が何をどうやってもだ
めっていう感じですね」

「うわ」

最悪じゃん。

「去年のクリスマスの方がましだったってことですか?」

「あの時は、元気はなかったけど、受け答えは出来てた
じゃないですか」

「はい」

「結局、最後まで口を開きませんでしたから」

あーあ……それじゃあ、いかにレンさんが優しいって言っ
てもどうしようもないじゃん。
よくなるどころじゃない。治療を続けても伯母さんが放り
出しちゃうくらい悪化してるってことか。

「ただね」

「はい」

「それは仕方ない。私はそう考えてます」

「仕方ない、ですか」

「はい。穂積さん、今まで自分のキャパ以上に中身を吐き
出しちゃったんじゃないかなあと」

ふうん。



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