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三年生編 第104話(4) [小説]

会長が、手にしていたヤブガラシのつるをぽきっと折り曲
げた。

「わたしたちが手にするものも、そうだと思うな。そうな
ればいいなあと願っていっぱい努力しても、そのほんの一
部しか実らない。でも」

両手を腰に当てた会長が、自分の家の庭をぐるっと見回し
た。

「実らせる努力と生命力を失ったら。そのほんの一部すら
実らなくなるからね」

ぞっ。

すっと振り返った会長に、がっつり警告された。

「後輩にもうバトンを渡したのなら、プロジェクトはもう
アルバムに貼ったら? いつきくんは、プロジェクトから
得られる実りは十分収穫したと思うよ」

◇ ◇ ◇

会長の最後の一言は、本当にきつかった。

そうなんだよね。
僕がプロジェクトにとことんこだわるなら、最後の最後ま
で主役でいりゃあよかったんだ。
役についてなくたって、僕のできることはいっぱいあるん
だからさ。

でも、プロジェクトは僕個人の持ち物じゃない……そうい
う筋論に妙にこだわって、自分から先に幕を下ろしちゃっ
たんだ。中途半端にね。

そんな自分自身をなんだかなあと思っているから、もやも
やになる。
もやもやの悪影響が、いろんなところにはみ出しちゃう。

勉強に集中し切れない。
すぐに後ろを向く。思い出モードに入っちゃう。
考え方がネガ寄りになって、気持ちの切り替えがうまく行
かない。

これでもししゃらと口喧嘩でもしようものなら、最低最悪
の激突になっちゃうだろなあ……。

でもしゃらは、来月の新居への引っ越しのことで頭がいっ
ぱいだ。
それは、しゃらがずっと望んでいた明るい変化だからすっ
ごいあげあげになってる。機嫌がいいんだ。
そこだけは、神様が配慮してくれたっていう感じかな。

さあ、いつまでもぐだぐだ考え込んでいたってしょうがな
い。

模試の問題と解答例を広げて、早速チェックにかかる。
使える時間資源を無駄にするな、か。
そうだね。もうそんなに残っていないんだからさ。



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