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三年生編 第103話(1) [小説]

9月24日(木曜日)

長かった連休が明けたけど。
ずーっと机に向かってたから、連休だったっていう実感は
なかった。
受験生はどこにいたってあんまり変わらないっていう、ど
うにも中途半端な感じ。登校しても今いちめりはりがなく
て、どうしてもぴりっとしない。

そう感じるのは僕だけじゃないみたいで、教室全体の雰囲
気がダルだ。
連休中にあれしたこれしたっていう楽しい話題で盛り上が
れないのはつまらないけど、受験生ならしょうがないよな。

お互いの受験勉強の進捗状況を探り合う、味気ない会話し
か聞こえてこない教室の端っこで、ぼんやり窓の外を見る。

だんだん空が高くなってきた。
まだ暑さを感じる日もあるけど、確実に秋が深まっている。

そっか。
高校の夏は……もう全部使い切ってしまったんだな。

少し感傷的になってぼやっとしてたら。
頭の上にいきなり拳が落ちてきた。

ごん!

「いでえ……」

「朝っぱらからぼけっとすんな!」

立水か。
進路を変更したんなら、僕にかまってる暇なんかないと思
うんだけどなー。

「なにー?」

「予定変更で今日の放課後に風紀委員会だとよ。斉藤先生
から伝言だ」

ああ、単なるメッセンジャーか。

「了解」

「おい」

「うん?」

「まだ、おまえが仕切ってんのか?」

「まーさーかー。二学期から二年生の副委員長に議事運営
役をバトンタッチさ。ただ、委員会が休み明けに一回あっ
たきりで、そのあとずっとなかったんだよ」

「なんでだ?」

「さあね。分からんわ。学校からは何もアナウンスなかっ
たし。顧問が交代したから、その影響もあるんちゃう?」

「交代したあ?」

立水がびっくり顔。

「そんなこと、あるんか?」

「あるんでしょ。体調を崩したとか、急に転勤が決まった
とか、先生にもいろいろ都合があるんだろうし」

「うーん……でも風紀委員会だからなあ」

立水の見立ては正しい。
生徒と学校が対立した挙句に出来ちゃった、うんとこさき
なくさい委員会だからね。

当然学校は生徒を力尽くで制御するために、猛者を顧問……
いや目付役につけるでしょ。
実際、大高先生はどうしようもなく猛者だったし。
その先生をあえて交代させれば、立水だけでなく、誰もが
変だと思うだろうな。

夏休み明けすぐの風紀委員会で、理不尽にぶち切れた大高
先生。僕の指摘に感情的になった挙句に自爆した。
安楽校長が迅速に動いて、その日のうちに顧問が斉藤先生
に差し替えられてしまったんだ。

顧問交代の事実がなぜ広まっていないか。
顧問が大高先生でも瞬ちゃんでも、コワいという点では何
も変わらないからだろなあ。
特に、瞬ちゃんをよく知らない一、二年生には、ね。

「まあ、なんやかやあってもしょせん委員会だよ。委員会
に権限があって何か決められるわけじゃないし、副委員長
の森下くんには気楽にやってって言ってある」

「それもそうか」

熱血立水には今いち納得出来なかったかもしれないけど、
三年が今更そこに突っ込んでもしょうがないでしょ。


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