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三年生編 第103話(2) [小説]

ぶつくさ言いながら席を離れた立水と入れ替わって、聞き
耳を立ててたしゃらが首を突っ込んできた。

「ねえねえ、いっき」

「うん?」

「風紀委員会って、ずっとやってなかったの?」

「いやあ、月二回くらいだから、休み明けの一回のあとが
先週くらいだったんだ」

「そっか。連休に引っかかったんだね」

「そう。それ以外にもいろいろあるけどね」

「え?」

「夏休みにいっぱい処分者が出たし、校長の夏休み潰すぞ
宣言もあったでしょ?」

「うわ、そっかあ」

「議論のたたき台を、もうちょい生臭いものにするんじゃ
ないかな。準備がいるから、一回飛ばしたんちゃうかなあ
と」

「ふうん」

安楽校長がピンチヒッターなのと同じで、瞬ちゃんもきっ
と来年までの繋ぎだろう。
だって、生徒会の顧問と風紀委員会の顧問を兼任じゃ、ほ
とんど黒幕じゃん。
瞬ちゃんがそういうの大好きっていうなら別だけど、ぱ
りっぱりに乾いてるからなー。

まあ、どっちにしても僕ら三年にはあまり縁がない話にな
るはず。
高みの見物で、瞬ちゃんのお手並み拝見と行こう。


◇ ◇ ◇


ざわざわざわ……。

大高先生以上に強面(こわもて)の瞬ちゃんが、視聴覚室
の一番前でふんぞり返ってる。
もちろん安楽校長の姿はない。

どっちに転ぶか分からない大高先生と違って、いつも持論
をがりがり正面からぶちかます瞬ちゃん。
それが通っても通らなくても、言うべきことは言う。
校長の制止なんか意味ないってことなんだろう。

「そろったな」

委員の頭数を数えてのそっと立ちあがった瞬ちゃんが、開
口一番強烈な毒ガスを噴射した。

「ったく、くだらねえ委員会作りやがって!」

どわははははっ!
生徒は全員大爆笑。
でも、瞬ちゃんはにこりともしなかった。

「最初に言っとく。こんなクソ委員会の意味なんざ、何も
ねえよ。でも委員会はある。もうあるんだよ」

笑い声でざわついていた教室の中が、さあっと静まった。

「いいか? 俺はこんなクソみたいなもんは要らないと最
初からずっと言い続けてる。でも、出来ちまったよな?」

し……ん。

「誰か、こういうのを作ってくれってお願いしたか?」

全員、首を横にぷるぷる。

「だろ? おまえらだけじゃないさ。生徒会も部長会で
も、風紀委員会は校内警察や不愉快なちくり合いをはびこ
らせるだけで、綱紀粛正には逆効果だと言い続けた。そし
て、俺や生徒の懸念は、二十三人の処分者が出るという事
実で当たっちまってる」

どん!
瞬ちゃんが、拳を教卓に叩きつけた。
その憤怒の表情を見て、書記の河西さんの手が震えてる。

「だあれも得をしてねえ、くっそも役に立たんろくでなし
の委員会だっ!」

瞬ちゃんの怒声が、広い教室をみっちり埋め尽くした。

「それでもな。すでに風紀委員会ってのはあるんだよ。ど
んなにクソみたいなものでもな」

立ち上がっていた瞬ちゃんが、どすんと椅子に腰を下ろし
た。

「そこにあって役割が割り振られている以上、それは絶対
にこなさんとならんのさ。俺だけでなく、おまえらもな」

ぐいっと右手を突き出した瞬ちゃんが、一人一人の生徒を
指差していく。

「それが世の中ってやつなんだよ。覚えとけっ!」




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