SSブログ

三年生編 第102話(5) [小説]

でも、伯母さんはどこに着地させるんだろう?
二人の結婚そのものには反対しようがなく、でも手続きが
どうにもまずい……ってことでしょ?
そもそも手続きってのがご両親の結婚承諾だとしたら、そ
こから一歩も動けなくてこう着状態になっちゃうじゃん。

僕が何度も首をひねっているのを見た伯母さんが、さっと
落としにかかった。

「じゃあ、手続きってのは何? 私が答えを言ったんじゃ
クスリにならない。二人で今考えなさいよ」

佐々木さんと素美さんだけじゃなく、僕までそろってうん
うん考え込むはめになっちゃった。

タカと五条さんの時も、中沢先生とかんちゃんの時も、い
きなりゴールインだったからなあ。
それ以外に、何かあったっけ? 

あ、そういやリックさんとしずちゃんはどうだったんだろ
う? 
しずちゃんの親がすっごい反対してたのを、リックさんが
説得したって言ってたよな。そのことかな?
いや、手続きだから。たぶんそうじゃないなー。
うーん……。

でも、一番参考になりそうなのがリックさんとしずちゃん
の結婚だった。
ちゃんと一般的な形式に則って、結婚までのプロセスを進
めたって聞かされたから。
一般的、かあ。

付き合い始めて。結婚したいなと思って。プロポーズして。
入籍して。結婚式。

何か欠けてる?

「あ……」

真っ先に気付いたのが僕ってところが、すごく間抜けだっ
たかもしれない。

「そうか。確かに」

「でしょ?」

伯母さんが、僕の顔を見てにやっと笑った。

「なんだなんだ。当事者じゃないいつきくんが真っ先に気
付くってのは情けないね」

「リックさんとしずちゃんの結婚で分かりました」

「そうだね。リックはすごくまじめだから、ちゃんと手続
きを踏んだんだ。フルコースでね」

「はい! 婚約と結納が欠けてますよね?」

その瞬間。
佐々木さんと素美さんが、真っ赤になってしょぼんと俯い
た。

「つまりね。佐々木さんと素美さんはベストを尽くしてな
いの。周囲の人たちに、自分たちの結婚の意思は固いんだ
というアピールがしっかり出来てない。だから、親の態度
を硬化させちゃうの」

ぴっ!
伯母さんが、佐々木さんに指を突きつける。

「いつまでも遊んでいるガキの感覚でいたら。あっという
間に奥さん子供を巻き添えにして不幸にするよ! 自分の
年を考えなさいよ!」

おおらかな佐々木さんだけど、それは無神経や行き当たり
ばったりの裏返しでもある。
伯母さんや榎木さんは、その無計画性が怖くて仕方ないん
だろう。僕も心配。

「婚約や結納ってのは、単なる儀式や通過儀礼じゃない。
結婚までの間に、自分たちの精神を個人から二人セットに
束ねていかないとならないの。そのための重要なステップ
だよ」

なるほど……。

「関係者への周知、新生活に向けた準備、親との関係の調
整……みんな、その期間に行なう。そして、予備期間を置
くことで頭が冷える。自分にとって本当に相手が必要か、
二人で支え合って生きていけるのか、それを改めて確認す
る必要があるの」


nice!(47)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 47

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。