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三年生編 第102話(4) [小説]

僕らを全員見回して、ふうっと大きな溜息をついた伯母さ
んは、もう一度同じ宣言を繰り返した。

「うちに下宿してた時に、素美さんには過度な箱入り状態
をなんとかしなさいってどやした。素美さんは、それを解
消すべく努力してくれたと思う。社会人としてだけでな
く、成人した一女性としての努力もね」

伯母さんが、ぎゅいっと眉を吊り上げる。

「でも、それとこれとは話が違う。私は細かいことをぐ
ちゃぐちゃ言いたくないけど、筋はちゃんと通して欲しい」

ぐっと唇を噛んだ素美さんが、小声で抗議した。

「結婚に……反対ってことですか?」

「私にそんな権利はないよ。私はこの年まで結婚してな
い。当然、親としての立場からものを言えるわけがない。
そうじゃないの」

伯母さんの厳しい視線は素美さんにではなく、佐々木さん
に向けられた。

「あんたがちゃんと流れをコントロールしなきゃ。社会人
経験もあって、対人関係も調整出来るんだからさ」

きっと、同じことを榎木さんからもどやされたんだろうな。
佐々木さんが顔を赤らめて俯いた。

「まったく、譲さんも相変わらずの抜け作だよ」

今度は榎木さんの愚痴。

「農村てのはコミュニティが小さいんだから、ちゃんと手
続きを踏みなさいって口酸っぱくして言ったのに」

ここで、素美さんのお父さんが慌てだした。

「あの……娘を止めてくれるんじゃ」

素美さんのお母さんだけでなく、伯母さんと榎木さんの呆
れた光線が加わって、一斉にお父さんに向けられる。

「父親だから娘の先行きが心配だってのは分かるけど、こ
こまで来たら腹をくくるしかないでしょ?」

ぐわ。強烈な伯母さんの一撃。

「私たちがどやそうとしてるのは、そもそも論じゃない
の。あくまでも、手続きのこと」

あーあ。お父さん、もう蚊帳の外だ。
父親ってのは、カワイソーなものなんだなあ。
将来実生が結婚てことになったら、父さんもどうするんだ
か。

伯母さんが、佐々木さんの顔を真正面から見据える。

「あのね、佐々木さんは親と衝突して、跡を継ぐことを放
棄した。親とは切れてるの。それで、素美さんのご両親と
も断絶してごらん。いざという時、誰を頼るの?」

佐々木さんと素美さん、そろって撃沈。

「だから、ちゃんと手続きを踏みなさいって言ったの!」

どかあん!

「まったくっ! いいオトナが揃ってガキみたいな態度
で。そんなんでこれから十年、二十年やっていけると思
う? 論外だよっ!」

そういうことか。
やっと事情が飲み込めた。

素美さんのご両親が結婚に反対。
それにかちんと来た二人が実力行使に出たってことか。



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