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三年生編 第102話(6) [小説]

榎木さんが、口元を歪めて吐き捨てた。

「俺らの勝手にするって何もかも放り出したら。あんた方
もそうされるんだよ? 少しは常識を考えなさいな」

関係者がいっぱいいるから言葉だけだけど、榎木さんと
佐々木さんの一対一だったら鉄拳飛んだかも。
それくらい、榎木さんのどやしは強烈だった。ぞわわ。

「ってことで、私と榎木さんの説教は終わり。あとは、あ
んたたちでどうするか考えなさい」

伯母さんがすぱっと宣言して、解散にしちゃった。

「あ、一言だけ追加。もし、さっきいつきくんが言った手
続きを踏むなら、その相手は佐々木さんと素美さんのご両
親だからね。私たちをこれ以上頼ったり巻き込んだりしな
いように。以上!」

き、きっつぅ。


◇ ◇ ◇


全員退去かと思ったけど、伯母さんと素美さんのお母さん
だけが、少しだけ延長戦をやった。

「申し訳ありません。娘がご迷惑をかけて」

「いや、結婚そのものはいいんだけど、そのあとを考えた
ら慎重なくらい地ならしをしとかないと……」

「ええ」

「あの」

僕は不思議だった。
お母さんは、反対じゃないのかな。

「いいんですか?」

「娘の決めたことです。その責任を親に取れって言われて
も、それは……ね」

お母さんが、遠ざかっていく二人の背中をじっと見つめて
いる。

「いいんですよ。成功も失敗も、その中にいないと分から
ないんですから。トライの結果は、全部自分で受け止めて
もらわないとね。未成年ならともかく、もう大人なんです
から」

お母さんの優しい微笑みは、そのあと苦笑に変わった。

「素美は大丈夫でしょ。ちゃんと現場を体験して、その上
で覚悟をしたんでしょうから。それより、いつまでも子供
のお父さんをどうするかの方が、ずーっと大変」

そうかもしれない。
さっきだって伯母さんの筋論なんかどうでもよくて、誰か
結婚話そのものを止めてくれよって必死の形相だったから。

それを誰も相手にしてくれなかったっていうのが……なあ。
ものすごく哀れだった。
父親って、かなぴー。


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