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三年生編 第99話(6) [小説]

目をつぶろうとしたら、ドアがノックされた。

「うい?」

「お兄ちゃん?」

ああ、実生か。

「どした?」

「だいじょうぶ?」

細くドアを開けた実生が、心配そうに首を突っ込んだ。

「少しましになった。このまま寝るわ。明日から連休だし」

「そだね。おやすみなさい」

「うーい。おやすみー」

ぱたん。

「ふう……」

ここに越してきてから微妙に僕との距離を確保してきた実
生が、今になってその空いてしまった距離を不安視してる。

人間て、ほんとにめんどくさいね。

◇ ◇ ◇

そのまま翌朝まで寝るつもりだったんだけど、枕元の携帯
が鳴って目が覚めた。

「お? 薬が効いたかな?」

横になる前よりはだいぶ楽になってる。

「しゃらかな?」

学校には行ったってだけで、結局早退しちゃったから、気
になったんだろう。

相手の番号を確かめないでそのまま電話に出た。

「ういー」

「工藤さんですか?」

男の人の声が聞こえてぎょっとする。だ、だれっ?

「あ、うー。そうですが……あ、レンさん?」

「すいません。寝てました?」

あっちゃあー。すっかり忘れてた。

「ごめんなさーい。僕からかけるって言ってたのに」

「いえ、頭痛は治まったかなーと」

「まだ、じわっと残ってるんですけど、薬は効きました」

「よかったです。じゃあ、今話しても大丈夫ですか?」

「おっけーです」

レンさんの口調が、ちょっといつもと違う。
明るくも暗くもなく。こう、なんつーか、迷ってるっぽい。
困ってる感じ。

「実はですね」

「はい」

「穂積さんのご両親が、私のところに見えまして」

「へっ?」

なんじゃとてーっ?

「な、なんでまた」

「穂積さん、入院されてたんですね」

そっか。
去年のクリスマスの後は、レンさんと穂積さんには接点が
ないもんな……。

「ちょっとね、どつぼっていうよりも病気で」

「うつ、なんですよね」

「はい。伯母が療養施設に移してケアしてたみたいなんで
すけど……。ずっと面会謝絶で」

「そう伺ってます」

「その施設を出たってことなんですか?」

「ええ。でも、まだ状態がよくないようで」

だろうな。はんぱなヘコみ方じゃなかったから。

「本来なら、まだ施設から出せる状況じゃないみたいなん
ですが」

「何か支障があったんですか?」

「土屋さんが、ケアの統括役から降りたんです」



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