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一年生編 第154話(1) [小説]

3月18日(火曜日)

うひー、なんか知らん、急にどたばたになってしまった。
元はと言えば、昨日の夜に飛び込んできた電話が発端。

あっきーが、終業式終わったその足でこっちに来るのは前か
ら聞いてる。それは問題なし。
でも、昨日あっきーが追加して連絡してきたことは、ぶっ飛
びの内容だった。

「あのぉ、いっきぃ、ちょっと頼みずらいことなんだけどさ
あ……」

「なに?」

「こっちの付き合いの長い友達が、わたしがそんな得体の知
れないところに行くのは心配だつーて、そっち見たいって
言ってるの」

「げっ!」

そんなに心配だったら、その友達が面倒見てあげりゃあいい
のに。でも、学生は親掛かり。そうも行かないか。

「で、どうしろって?」

「泊めたげてくれない? 会長さんは妊婦だから、無理かけ
させたくない。話切り出しにくいし」

「おいおい。僕んとこなら大丈夫だろってか?」

「うー、わたしも友達に下宿の話切り出しにくくて、直前に
なっちゃって。他に頼めるあてもないし……」

うー、まあ一人くらいならなんとかなるか。

「なんて人?」

「ええとぉ……」

言いよどむあっきー。

「重野(しげの)みゆちゃんと、坂下有妃(さかした ゆ
き)ちゃん」

「どえーっ!! も、もしかして二人ぃ?!」

「う、うん。わたしの小学校時代からの友達なの」

「ううう。ちょっと厳しいオーダーやの。でも、急ぎで母
さんに当たってみる。折り返し電話するわ」

環境が変わって心細いだろうあっきーのサポートには、万
全を期さないとならない。
向こうの友人とのホットラインがつながってれば、その方
が安心かも。

母さんは、僕と同じように考えたんだろう。特に反対もせ
ず、おーけーを出した。

それを電話であっきーに伝えた。
喜ぶあっきー。明日は三人でこっちに向かうそうだ。

もうあっきーの荷物は会長宅に届いてて、部屋に運ばれてる。
きっと、こっちに来てから三人でわいわいと荷解きするん
だろう。

そんなふうに。
軽く考えていた。

「いっちゃーん、遅れるよー」

「あ、出なきゃ」


           −=*=−


「おはよー」

「うす」

かっちん、口数が極端に少ない。

かっちんは、結局まだ浮上してない。
僕の言ったことがショックだったのか、それともどうするか
決めかねてるのか。

でも、僕からはこれ以上のお節介はしない。
自分でけりをつけていかないと、後悔するだろうから。

「おはよー……」

なっつも、まるで借りてきたネコみたいに静かに教室に入っ
てきた。
まるで自分をどっかにしまいこんじゃってるみたいに、穏や
かだけど表情がない。

うーん……二人とも重症だなー。
今日、明日で1Cも最後だってのにさ。

二人の様子を見てるうちに、大野先生がいつものようにのっ
たりと入ってきた。

「おーい、みんな席に着けよー」


           −=*=−


昼休み。

食事が終わって教室に戻って来たかっちんとなっつは、誰の
ところにちょっかいを出しにいくわけでもなく、無言で自分
の席に座ってる。

授業中は僕が間に入ってるけど、今は僕が席を外してるから、
かっちんとなっつを隔てているのは空気だけだ。
その空気がずっしりと重い。

こういうことには勘のいいばんこが、するするっと寄ってきた。

「ねえ、いっき。かっちんとなっつは、なんかおかしくない
か?」

「おかしいよ。でも、いじれないからね。ばんこも余計な
ちょっかい出さないように」

「うぶ。それはつまらん」

「人にちょっかい出す前に、自分をなんとかせ」

「ぐっさあ。きっついのぉ」

「いや、冗談抜きにさ。ばんこほどの意外性があれば、とて
つもないカレシが出来るであろう」

「たとえばどんな?」

「小泉純一郎とか、志村けんとか、緒方拳とか」

「おい、なんでおやぢばっかなんだ。しかも故人まで入って
るし」

「くけけ」

「ったく、ろくたらこと言わんのだから」

「そっくりそのままおまいに返す」

「ちぇー」

しのやんがこそっと寄ってきた。

「なあ、いっき。かっちんとなっつ、おかしくないか?」

「いや、今ばんこに話してたとこなんだけどさ。びみょーな
状態なんで、そっとしといてちょ。あれは時間かかるし、二
人の間でけりつけないかんことだから」

「そっかあ……」

そう言いながらも、心配そうなしのやん。

まあ、ばんこやしのやんに限らず、クラスのみんなは、かっ
ちんたちがびみょーな状態にあるってことに気付いてるんだ
ろう。

一見大雑把に見える二人の内面のデリケートさも、しっかり
把握してる。だから誰も無理に触らない。
こういうところが、1Cのいいところだったなー。

と、思いきや。
そういう僕の思い込みを、木っ端微塵に粉砕するのがいたこ
とをすっかり忘れてた。

とことことこ。
無言で所在なく座ってる二人のところに近付いたのは、小野
寺さん。

しまったあーっ!
慌てて制止しようとしたけど、時既に遅し。

「ねえ、二人とも空気どよってるけど、ケンカでもしたの?」

顔を上げたかっちんが、珍しく怒気丸出しで答える。

「何でもねえよっ!」

あっちゃあ……。クウキ読めよなって苛立ちがありあり。
冷静なかっちんなら、それを小野寺さんに言ったところでど
うにもならないってことは分かるはず。
それが分からないくらい、かっちんが切羽詰まってるってこ
とだ。

「ケンカしてたら楽しくないよ?」

かっちんが、怒りで顔を真っ赤にして怒鳴った。

「うるさいっ!」

ぽかんとする小野寺さん。
ここらへんが、マジぼけのマジぼけたるゆえんである。

だけど、意外な反発がなっつから出た。

がたーん!!
椅子を倒して立ち上がると、いきなりかっちんに平手打ちを
食らわした。

ばちん!

腰の入った、ナイスな平手打ち。
ゲンコでなかったところが、微妙な女心なんだろう。

「しょーこに当たらないでよっ!」

まあ、いつものパターンならど突き合いになるところだけ
ど、そうならなかったのはなっつが泣いてたからだ。
肩を振るわせて、声を上げて、だらだらと涙を流して。

袖で涙を拭ったなっつが、あっという間に教室を飛び出して
行った。

呆然とするかっちん。
きょとんとする小野寺さん。

ちっ!

僕は、かっちんの胸ぐらを掴んで立たせる。

「追えっ、追っかけろっ! ぐずぐずすんなっ!」

一瞬、ちゅうちょする素振りを見せたかっちん。
でも、僕が背中をどやしたのに押されるように、廊下に駆け
出していった。

じょいなーが、やれやれって顔で言う。

「あの二人は午後休だな」

わだっちが、にやにやしながら小野寺さんの肩を抱く。

「まあ、誰もどやさないならわたしがやろうと思ってたけど、
まさかしょーこがやるとはねー」

わだっちが手を出したら、まとまるものも壊れると思うっす。

「それにしても、いっきがあれだけ気合い注入するってのも
珍しいな」

相馬っしの突っ込み。

「んんー? 先週言葉で活入れたんだけど、効果が薄かった
からね。二人とも、めっちゃシャイなんだもん。でも無責任
にど突くわけに行かないし、長期戦覚悟してたんだけどさ」

にやにやするきっしー。

「チャンスは逃がさないってこと?」

「それが出来たんならね。神様、仏様、小野寺様」

おっとーが、吹き出す。

「ご利益なさそやのー」

ぽけらってる小野寺さん。
みんな大笑い。




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