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一年生編 第154話(2) [小説]

結局、予想通りかっちんとなっつは再登場せず。
まあ、二人でオチをつけてもらうしかない。

放課後。

なんか、明日でこのクラスも解散なんだってことがウソのよ
うに、みんなざわざわとしゃべりながら帰って行く。

さあ、あっきーたちが来るから早く帰らないと。

教室を出ようとしたら、恩納先輩が僕を待ってた。

「あれ、先輩どうしたんすか?」

「いや、ちょいと知恵を借りようと思ってさ」

はえ?

「なんでしょ?」

「今、ばあちゃんちから坂口の商店街までは、直線ルートを
開拓して十分ちょいで行けるようにしてる」

「ふむふむ」

「ところがだな。ルートの間に、ものごっつハードな障害が
あるのぢゃ」

「そういや、前にそんなこと言ってましたね」

「うむ。これまで何とかそれを、創意工夫もしくは肉弾攻撃
で突破してきたのぢゃが、卑怯にも敵が最新兵器を投入した」

「ちょっと、待ってください」

「ほ?」

「だいたい、その障害とか敵とか言うのはなんですかい?」

「む。あまり手の内を曝したくない」

「じゃあ、この話はなかったことに……」

「なーんも話なんかしとらんじゃないかあっ!」

「知恵貸せって言ったのは誰でしたっけ?」

「ごろにゃあん」

なかなか話が進まん。
お? しゃらが来た。

「あれ? いっきどしたの?」

「先輩から、不穏な相談を持ちかけられてるとこ」

苦笑いするしゃら。

「先輩のよた話を要約するとだな。おばあちゃんちから商店
街への買い物直線ルートってのがある。先輩が開拓したらしい」

「えー?」

しゃらが首を傾げる。

「曽根のあのあたりだと、一度川沿いまで下るか、国道に出
ないと、坂口まで出れないでしょ?」

「うー、それだと片道で二十分以上かかってまう」

「ちゃり使えばいいのに」

「ちゃりに乗れん」

「うっそーっ!」

驚くしゃら。僕も意外。とことん意外。
そういや、運動神経がどうだかは知らなかったもんなあ。

「家の間の細い私道を通って、坂口のすぐ手前までは来れる
んだ。問題は……」

しゃらが気付いたようだ。
くすくす笑ってる。

「木戸のおじいちゃんの大きな屋敷、ですね」

「そうなんだよー。あそこを迂回すると、結局最初から大回
りして行くのと時間変わんないんだ」

ちょっとちょっと。

「先輩、今までどうしてたんですか?」

「最初は屋敷と隣んちの間の隙間を、横歩きで抜けてたんだ
けどさ。幅が三十センチもないんだよ。わたしは最近またム
ネがでかくなっちゃって……」

ぐえ。

「つかえて抜けられなくなっちゃった」

しゃらが自分のムネを見下ろしてる。
うらやましーと思ってるんだろう。
気にしなくたっていいのに。

「しょうがないから、塀の上を歩いてたんだ」

ぎょえー! それもなんつーか、その。
まあ、確かにごつい塀だったからなー。

「そしたら、じじいがバラ線張りやがった」

って、それは防犯上当然の対応だと思うっす。

「もう最後の手段だってことで、正面突破してたのよ」

「えうー、正面突破ってなんすか?」

「堂々と正門から入って、庭を突っ切って、裏口から出る」

とことん呆れるしゃら。

「普通それを住居侵入って言いません? 警察呼ばれちゃい
ますよ?」

「背に腹は代えられん」

堂々と言い放つことではないな。うん。絶対にない。

「で、敵の最新兵器ってのはなんすか?」

「犬だ。でかい。気も荒そうだ。そいつの配備以降、我が軍
は糧道を断たれて死活問題になっておる」

我が軍てあたりが、なんとも。

「せんぱーい、そこ突破することを考えるよりも、ちゃり乗
る訓練した方が絶対に早いっす」

「断固拒否するっ!」

よほど、ちゃりで嫌な思いをしたことがあるのかもしれない。

「まあ、そんなにぴっかりすっきり解決する策なんてのはな
いでしょ。どう考えても。先輩、態度デカすぎるもん」

「ぬな?」

「そやないすか。木戸のじいちゃんちは最初っからそこにあ
る。先輩は、後からのこのこやってきた好ましくない闖入者
に過ぎない」

「チン・入・者?」

「えげつない想像しないように。侵入者でいいっす」

「ちぇ」

「まあ、素直に迂回するか、これまでの非礼を謝って通行を
認めてもらうか」

「色仕掛けは?」

「まあた、そういう良からぬことを企むぅ」

しゃらが呆れ顔で先輩の肩を叩く。

「先輩、気をつけないと、木戸のおじいちゃんは居合いの免
許皆伝ですからね。まっ二つにされますよ」

ぷるぷるぷるぷる。
先輩が首を小刻みに横に振った。

「よ、よ、よくわたしの首が今までつながってたなー」

「おじいちゃんは、あんまり屋敷にはいないからなー。いっ
つも散歩して出歩いてるから。屋敷で出くわさないでしょ?」

「む。確かにそうだ」

「しゃらは、木戸のおじいちゃんて良く知ってるの?」

「うん、からっとしたいい人だよ。昔は結構大きな会社の役
員やってたって聞いてる。奥さんには先立たれてるから、今
はお手伝いさんと二人暮らし」

「へえ。息子さんとかはいるの?」

「うん、お孫さん連れて時々は遊びに来てるみたいだけど、
近くには住んでなかったはず」

「ふうん」

なんとなく。
僕は、先輩と小塚のおばあちゃん、木戸のおじいちゃんてい
う三人に共通するものを感じた。

そう。
人なつこさと人恋しさ。
だったら、ちょっと試してみる価値はあるかも。

「先輩。どっちにしても、このままじゃ絶対に木戸のおじい
ちゃんとこは突破出来ない。博打打ちません?」

「ほえ? どんな?」

「面会して、ちゃんと話したらいいと思う。ただし、先輩だ
けでなくておばあちゃん連れて」

「なんで?」

「先輩の味方が多い方がいいでしょ? おばあちゃんの気晴
らしにもなるし」

「あ、なるほど」

うなずく先輩。

「わたしが学校行ってる間は、結局一人だもんね。茶飲み友
達が出来るのはいいかも。うしっ!」

先輩が、おおげさなガッツポーズをする。

「先輩、あんま突っ走らないようにね。相手はお年寄りです
から」

「わあた、わあた」

ほんとに分かってんのか?

「工藤くん、しゃら、アドバイスさんくす。じゃなっ!」


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コメント 4

ラブスコール

かっちんとなっつは、ちゃんと自分の思いや気持ちを
相手に伝えられたのかなぁ・・・
by ラブスコール (2012-03-12 17:56) 

水丸 岳

>ラブスコールさん

コメントありがとうございます。(^^)

いかにも彼ららしいオチになります。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-03-12 23:23) 

ナベちはる

アドバイスがちゃんと伝わって、突っ走らないといいですね。
by ナベちはる (2012-03-12 23:56) 

水丸 岳

>ナベちはるさん

コメントありがとうございます。(^^)

どうなりますか。なにせ、これまでずーっと互いを
ど突きあってた二人ですからねえ。(^^;;

by 水丸 岳 (2012-03-12 23:59) 

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