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三年生編 第107話(6) [小説]

お昼ご飯は、一人わびしくカップラーメン。
まあ、しゃあないね。

一度外に出て気晴らししたかったけど、実生や黒ちゃんと
鉢合わせたら、交渉に巻き込まれちゃうかもしれない。
交渉の目処がつくまでは缶詰に耐えないとな。

部屋に戻って英語の問題集をこなしていたら、呼び鈴が
鳴った。

「お? 誰だろ?」

急いで下に降りたら、窓から見えたのはリョウさんの姿
だった。
なんとも言えない、苦笑いを浮かべてる。

急いで玄関ドアを開けた。

「ちわーす。どうしたんすか?」

「いや、例の話さ」

「すみません。黒ちゃんがどじったんでしょ?」

「いや、プロジェクトの子たちはみんなまじめだったよ。
失礼なところはなかったし、段取りもしっかりしてた。わ
たしは、とても断れる雰囲気じゃなかったんだけどさ」

「あはは。菊田さんに、最初は絶対に断れって言われてた
んですよね」

リョウさんの視線が探りに変わった。

「菊田さんから何か言われてたの?」

「いいえー。僕が一番最初にトレマにバイトに行く時。会
長にがっつり脅されてたんですよ。菊田さんはものすごく
厳しい人だからねって。菊田さんが出どころなら、無条件
で引き受けろなんて絶対に言わないでしょ」

「そっか」

「僕の時に比べたら、今回の試練なんか甘々ですよ」

「え? そうなん?」

「そりゃそうっすよ。基準に届いてないからダメっていう
のは、ダメ出しされた方にはすごくわかりやすいもん。菊
田さんが設定したハードルとしては一番低いです」

「ふふふ。そうだよね」

「最初は無条件で断れっていうのは、依頼する方に姿勢を
再点検させる必要があるから。一回目よりも二回目の依頼
の方が絶対によくなるはず。それが菊田さんの狙いじゃな
いかなあと」

「うん。それでぴったりだと思う」

「二回目はどこがよくなったんですか?」

にやっと笑ったリョウさんが、胸の前でぐっと拳を固めた。

「熱意が見えたね。本気になった」

「やっぱり!」

「練習したセリフをすらすら言われたって、熱意は届かな
いよ。ナマが聞きたい」

「うす。黒ちゃん、喜んだでしょ?」

「泣いてたよ。若いなあ」

いや、それを若いリョウさんに言われましても。



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