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三年生編 第105話(4) [小説]

「続いて、審査委員長の小熊より今回のコンテストについ
ての総評を述べさせていただきます」

いよいよだ。

「授賞されたみなさん。本当におめでとうございます。
我々審査員が栄誉を獲得されたみなさんの庭のどこに着目
し、評価させていただいたかについては、コンテストサイ
ト上ですでに記載させていただきました。ここでそれをた
だ繰り返し述べても意味がありませんので、少しばかり年
寄りの与太話にお付き合いください」

しのやんだけでなくて、何人かの部員がノートやメモ帳を
出して筆記の態勢に入った。
そして……そんなことをしているのは、ぽんいちの生徒だ
けだったと思う。
僕は、それにものすごく強い違和感を感じたんだ。

「……」

小熊さんは僕らの方をちらっと見て、それから静かに話し
始めた。

「私は、HGCCすなわち、ハイスクールガーデニングコ
ンテスト事務局の創始者の一人であり、この大会の創設か
ら現在にいたるまでをずっと見つめてきました」

「スポーツや音楽、演劇のような分野と違い、園芸という
のは、比べる競わせるというのが極めて難しいんです。そ
れは美術作品の比較以上に個人個人の主観や価値観に左右
されるものだからです」

「それをあえてコンテストという形にしたのは、若い方々
が作庭を通じて様々な気付きと感動を得る、そういう機会
を増やしたいからです。単なる美化や清掃の延長として学
校の庭の造営や管理をするだけでは、庭の良さや価値を理
解できないだろう。そういう動機だったのです」

「全国校長会で、庭いじりの好きな何人かでそういう茶飲
み話をし。いっちょやってみるかと、私たちオービーが音
頭を取る形でこのコンテストを立ち上げました」

「完全手作りの小さなコンテストですから最初は応募がほ
とんどなくて、こりゃあ失敗だったかもなと苦笑いしたん
ですよ」

くすくすくす。
会場のあちこちから小さな笑い声が漏れた。

「でもね、ガーデニングブームの高まりとともに応募して
くださる学校が増え続け、今では応募総数が四百校に届こ
うかという規模になりました。相変わらず地味ではありま
すが、コンテストとしてもだいぶ世間様に認知されたかな
と自負しております。ただ……」

小熊さんがそこで発言を止めて、しっかり間を取った。

「最初の手作りコンテストの頃と今とを比べると、コンテ
ストの意義は変わらないものの、応募のあり方が変わって
しまったかなと思っています。事務局としては、そこが大
きな反省点です」

そら来たっ!
部員が一斉にペンを走らせる。
それは……他校の生徒や先生にとって異様な姿だったかも
しれない。

「今回受賞された六校のうち、審査員特別賞を受賞された
田貫第一高校さんを除く五校は、いずれもレベルが図抜け
ているんです。審査委員の中にはプロのガーデンデザー
ナーさんもおられますが、彼らが息を飲むほどの出来栄え
です」

うん。
悔しいけどその通りだった。ぐうの音も出ない。

「そうするとね、残りの応募校が全部咬ませ犬になってし
まうんですよ。それではコンテストになりません。受賞校
が常に特定の学校に偏るようでは、出来レースと言われて
も仕方ないんです」

ざわざわざわっ!
小熊さんの物騒な発言で会場が激しくざわついた。

「それは、今回受賞されたみなさんのせいではなく、我々
事務局の応募要項の不備が原因です。手作り大会時代の古
い考え方をどうしても払拭できなくて、それが大会の形を
歪めてしまっていた。これまでも度々委員の間で問題視さ
れていた部分が、コンテストの規定を変えないとならない
くらい大きくなってしまった」

「コンテストという形式を今後も維持していくためには、
そろそろ公平性を確保できる応募規定に変える必要があ
る。そういう判断をいたしました」

「コンテストサイトには応募要項の変更をはっきり明示す
る予定ですが、その前に旧来方式廃止の理由を明確にする
必要があるため、この場をお借りしての宣言とさせていた
だきます」


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