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三年生編 第105話(1) [小説]

9月27日(日曜日)

プロジェクトの創始者でありながら、今はお客さんになっ
てしまったもやもや感。
僕の中でそれが完全に払拭されたわけじゃないけど、全力
でがんばった後輩たちの晴れ舞台だ。
中途半端な顔を見せるわけにはいかない。

今日は、しっかり受賞式を楽しんでこよう。

日曜だけど、扱いとしては学校の公式行事と同じ扱いにな
る。
参加するプロジェクトメンバーは全員制服着用で、安楽校
長と顧問の桧口先生が指導教員として僕らを引率する。

授賞式の行われる東京の会場は、公立の文化会館とかじゃ
なくて、でかいホテルの大広間だそうだ。
なんか……緊張するね。

早朝田貫駅前に集合した部員たちは、僕やしゃらも含めて
ものすごく緊張していた。

「なんかさあ、受賞が決まった時にはわあいって感じだっ
たけど、いざ授賞式ってなると……」

「うん、こうなんつーか。場違い感出ちゃわないかなあと
か」

「なんだなんだ。心臓に毛がふさふさ生えてる君らしくな
いぞ」

安楽校長が、僕にえげつない突っ込みを入れてきて。
部員が揃って大笑いした。

ぎゃははははっ!

笑ってないのは、鈴ちゃんだ。
見るからにかちんこちんになってる。

まあ、今まで全校生徒の前で話すことはあっても、知らな
い大勢のお客さんの前に出てっていうのは経験ないだろう
からなあ。

やれやれって顔で鈴ちゃんの近くに歩み寄った校長が、に
やっと笑った。

「大丈夫だって。授賞式って言っても、ほとんどが審査員
の挨拶と講評なんだよ。君になにか話してくれってことは
ないさ」

「そ、そそそ、そうですか」

「まあ、受賞おめでとうございます。感想を一言……って
なとこだろ」

「うう、そ、その感想っていうのが」

「ありがとうございます、うれしいですだけでいいだろ? 
どこもそんなもんだ」

まあ、そうだよな。

「それよりな」

僕たちをぐるっと見回した校長から、意外なアナウンスが
あった。

「今日の審査委員長の話は、すごく長くなるはずだ。寝な
いように」

それを、安楽校長がにやにやしながら言ったのなら、僕ら
はどっと笑っただろう。
でも校長はにこりともしないで、きっぱり言い切った。

「あの……何か大事な話があるってことですか?」

鈴ちゃんが、不安げに校長に聞き返した。

「ある。君らのチャレンジが今年一年きりなら黙っていた
が、来年もまたチャレンジするんだろ?」

一年生たちが、揃って大きく頷いた。

「それなら、今日の審査委員長の話は一言一句聞き漏らさ
ない方がいい」

「校長」

桧口先生が、すかさず突っ込んだ。

「レギュレーションの変更ですか?」

「それもある」

「それも……か」

「今回のコンテストに関する総評はネット上で公開され、
参加した各校の校長あてにも送付されてる。でも、それは
あくまでも今回のコンテストで完結するもの。次回は次回
で、開催するかどうかも含めて今まさに事務局で検討中だ
ろう」

「ええ」

「それが例年通りなら、何も追加アクションはない。だ
が、校長宛の文書には、コンテストを衣替えする旨の予告
が盛り込まれていたんだ」

「そうか。その変更ポイントが、受賞式の時に事務局から
示されるかも。そういうことですね」

「そう。小幅な変更ならアナウンスなんかしないよ。次回
の募集要項の中に注意書き付きで掲載されるだけさ。わざ
わざアナウンスしてきたということは、大規模なリニュー
アルになるということ。どこが変わるのか、絶対に聞き逃
さないようにな!」

校長が絶対と強く言ったこと。
多くの部員が、それに反射的にうなずいた。

「さて。行こうか」



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