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三年生編 第104話(8) [小説]

会長の厳しい考え方。
レンさんのゆるーい考え方。

僕とプロジェクトとの関係のことをレンさんに愚痴った
ら、レンさんからはきっと違う答えが返ってきたと思う。

そして、会長とレンさんの考え方のどっちが正しい、間
違ってるってことじゃないんだよね。
いろいろあったのを、自分なりにこなして生き延びてきた
のは二人に共通。
でも、二人の生存戦略(タクティクス)は明らかに違うん
だ。

当然、僕は僕なりの生存戦略を考えないとならない。
戦略の選択を間違えたら、他の草に押し潰されて枯れてし
まう。
会長とレンさんのやり方のいいところをもらい、受け入れ
られないところはスルーする。
そういう賢さやしたたかさを身につけていかないとダメだ
なあ……。

会長が目の敵にしていたヤブガラシを思い出す。

日本の東西でタイプが違うヤブガラシ。
でも。実がなってもならなくても、ヤブガラシはタフで、
どこにでも生えてて、しっかり生き残る。
俺が俺がと他の草木の上に這い上がり、みっちり茂って蓋
をしてしまうのがヤブガラシなんだ。

その勢いに負けたくないなら、ヤブガラシが絡めないくら
いに自分を大きくするしかないんだよね。

「ふうっ」

英語の問題集を広げ、ぎぎっと睨みつける。

うじうじ考え込んで、その場にスタックしてしまいがちな
自分。
そのままいつまでもどつぼにはまっていたら、がんがんは
びこるヤブガラシの餌食になる。

穂積さんは、まさにその状態。
お祖父さんお兄さんの傘の下で守られていた穂積さんは、
見た目よりずっとひ弱だった。
周囲の誰もがヤブガラシに見えて動けないんだろう。
さんさんと日が当たってるのに、枯れる寸前になってる。

高瀬さんと糸井先生に守られ続けたレンさんも、状況は似
てたと思う。でもレンさんは穂積さんとまるっきり逆。
頭上が明るくなった幸運を絶対に逃がさないだろう。
自分がヤブガラシになろうとして、今すごく生き生きして
る。

穂積さんとレンさんの差はそんなに大きくない。
違うのは……俺もはびこるぞという意欲の差だけなんだよ
ね。

じゃあ、僕は?

問題集の英単語を見つめているうち、それがヤブガラシの
つるのように見えてきた。

「う……」

ひとごとじゃないよな。
僕だって、このままじゃヤブガラシの下敷きになる。

模試の出来不出来に一喜一憂しているようじゃ、競争相手
に置いていかれる。
ぼけっと溜息ぶちかましてる暇があったら、必死に薮を切
り開いて明るい場所に出ないとだめだ。

「この野郎」

ヤブガラシのつるがすぐそこまで迫ってる。
足元がもぞもぞしているように感じて、思わず蹴りを入れ
た。負けてたまるか!

「さあて、もう一踏ん張り!」



ybgrs.jpg
今日の花:ヤブガラシCayratia japonica


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