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三年生編 第102話(8) [小説]

「義母との同居が始まりましたし、小さい子二人と義母の
面倒を私一人で見るのは正直しんどいです。でも、家事と
子供の世話を親身にこなしてくださる方を探すのが、結構
大変で」

「そうでしょう? 金銭的なことはともかく、住み込みで
一日中となると双方にストレスがかかるでしょうから」

「そうなんですよ。いっそのこと、割り切ってヘルパーさ
んとシッターさんを時間雇用していこうかと思っていたん
ですけど、慌ただしいんですよね」

あ! そうか。伯母さんの意図は読めた。
でも、あっきーと弓削さんはまるっきりタイプが違う。
うーん……。

伯母さんが、ぐりっと首を回して弓削さんの方を見る。
それからもう一度会長の方に向き直った。

「事情を隠してもしょうがないので、これからそれを明か
します。それを聞いていただいた上で、波斗さんにぜひお
願いしたいことがあるんです」

「なんでしょう?」

会長がこくっと首を傾げた。

「住み込みにさせてくれとはとても申し上げられません
が、彼女を家政婦として雇用していただけないでしょう
か?」

「は?」

会長が、ぽけらった。

「あの。お見かけしたところ、高校生くらいのような」

「いつきくんのところの実生ちゃんと同じ、16歳です」

「何か事情が?」

「身寄りがないんですよ」

前に会長を交えてりんと弓削さんの話をしたから、会長は
だいたいのことは知ってる。
でも、もっと詳しい事情が知りたかったんだろう。
今回初めて聞くという姿勢で、伯母の説明を待った。

伯母さんは、一切の無駄を省いて淡々と弓削さんの事情を
会長の前に並べていった。

「彼女は、弓削佐保と言います。母親の行き過ぎた依存と
束縛の影響、そして周囲の人たちの無理解と放置の影響で、
人格が壊れています」

「壊れて……ですか」

「ええ。誰にでも隷属してしまうんです。ロボットと同じ
ですね」

会長が、じいっと弓削さんを見る。
そう今の時点でも、ものすごくおかしいんだよね。
自分の話をされているのに、まるで他人事なんだもん。
あのとんでもないおっさんがいた会議の時と同じだ。

でも、隷属しようとする相手をきょろきょろ探さなくなっ
ただけでもものすごい進歩なんだ。

安心して自分を解放できる相手……妹尾さんと自分の赤ちゃ
んがいるから、妹尾さんと他愛ないおしゃべりをして、し
きりに赤ちゃんに話しかけてる。

「じゃあ」

会長が、こわごわ赤ちゃんを指差す。

「あの子も、彼女が望んで産んだわけではないんですね?」

「そうです。母親の死後、複数の男の間をたらい回しされ
て子供ができてしまった。行政のケアを受けようとするな
ら、母子別々が原則で、彼女がそれを認めてくれればサ
ポートプランを組めるんですが、隷属体質の彼女が唯一猛
烈にこだわっているのが自分の娘なんですよ」

「それ……」

「恐ろしいでしょ? 赤ちゃんだけは自分に命令しない。
それが、赤ちゃんにこだわる理由ですから」

真っ青になった会長が、弓削さんからさっと視線を逸らし
た。


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