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三年生編 第100話(4) [小説]

しゃらの口調に強い不安が混じった。
素美さんのお父さんは、りんの親父みたいな横暴なタイプ
ではないと思うけど、自分の子供はしっかりコントロール
したいっていう感じだったから。
まだ短大出たばかりでいきなり……っていうことに、強い
不安と不満を持ってそうだし。

親じゃなくたって、僕らだって心配だよ。
元々は男性恐怖症に近かったんだしさ。うーん……。

「まあ、僕らは推移を見守るしかないよ。外野が余計なヤ
ジを飛ばすわけにはいかない」

「うん、そだね。だから情報提供だけ」

「らじゃ。あ、そうだ」

「なに?」

「明日、何か予定入ってる?」

「ううん、なにもないよー」

「県立大のオープンキャンパスがあるんだ。一緒に行かん?」

「行くーーーーっ!」

ちょっと微妙だったしゃらの口調に、どかあんと熱が入っ
た。

「行く行く行く行く行くーーーーーーっ!」

「だはは! 天気良さそうだし、僕の第一候補だからさ。
気合い入れてこようと思って」

「そだねっ!」

「じゃあ、明日の朝、出る時にまた連絡する」

「うん! ここから大学までどれくらい時間かかるの?」

「駅から一時間半くらいかなあ。県北だから、田貫市から
は結構離れてるんだ」

「そっかあ」

「じゃあ、そゆことで」

「うん! また夜に電話するね」

「ほい」

ぴ。

「ふう……」

むー、なんというか。
確かにおめでたいことだとは思うんだけど、大丈夫なんか
なあ……。

素美さん、やっとハタチ越したばっかじゃん。
社会経験て言っても、一年かそこらでしょ?
ましてや農家の嫁。重労働なんだし、近所付き合いとかも
濃そうだし、あの引っ込み思案で男性恐怖症の素美さんに
務まるんだろうか。ううう。

心配だけど、だからと言って僕らに出来ることもないし。
大きな揉め事にならなきゃいいなって、祈るしかない。

ただ……。

「そっか。二年の間に動いてる。変化してるってことだよ
ね」

僕らガクセイにとっては、在学期間が決まってるから毎日
が変化の繰り返し。いやでも変化しちゃう。
オトナになったら、その変化は緩やかになるのかなあと思っ
てたんだ。何の根拠もなく。

とんでもない!
でっかい変化ばっかじゃん!

五条さんや会長、宇戸野さんには子供が出来て、家族が増
えた。それは、ある程度予測出来た変化。
うん、やっぱりねって感じ。

でも……。

佐々木さんと素美さんは違うよね。
佐々木さんの農場でのバイトで出会いがあって。
付き合いが始まって、素美さんが振られて。
そこから素美さんが盛り返した。
まだ最終決着はついてないんだと思うけど、今もまさに変
化の真っ最中だってこと。

素美さんが、変化を望まない慎重姿勢を最後まで崩さな
かったら。振られたところで全部終わりだったはず。
でも、素美さんは変化に挑んだんだ。

動かされる自分を捨てて、行動する自分に作り直す。
家族から反対されても芸能界に入ったお母さんの勇気と決
断を、そのまま引き継いだって感じだ。

うーん、そういうところは親子って似るのかなあ。

「むー」



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