SSブログ

三年生編 第100話(2) [小説]

「そ、そんなあ」

「まあ、伯母さんの気持ちも分からんでもないんだけどさ」

「どゆこと?」

「伯母さん、今は弓削さんのことで頭がいっぱいなんだよ」

「あ……」

「ケアをする人にとっては、よくなる転換点と悪くなる転
換点、そこを見抜けるかどうかがすっごい大事なんでしょ」

「そっかあ。弓削さんには、今そのよくなる方が来てるっ
てことか」

「うん。弓削さんの抱えている悪条件を解消していくなら、
潰せる悪条件はタイミングよく潰していかないとならない」

「そうだよね……」

「ケアスタッフが入れ替わっちゃうからね。それまでに、
弓削さんが変化についていけるよう鍛えないとならないか
ら」

「入れ替わるって?」

「そうなるじゃん。りんは上京するし、妹尾さんも期間限
定だからさ」

「あああーっ! そっかあ!」

「うん、弓削さん本人じゃなくて、周りがヤバいんだよ」

「げー」

「そしたら、施設でケアを受けてる穂積さんからは意識が
それちゃうんだ」

「……どして?」

「変化がないからさ」

「変化……かあ」

「そういう病気だから、しょうがないんだけどね」

「うん……」

「穂積さんの両親が、穂積さんをケアする態勢を整えたか
らさ。伯母さんとしては、身内なんだからこれからはあん
た方がやってっていう感じなんでしょ」

「……出来るの?」

やっぱりね。
僕ほどダイレクトじゃないにしても、しゃらの口調からも
懸念がにじんでる。

「無理だよ。穂積さんをあんなにしちゃったのは、両親な
んだから」

「だよねえ」

「いくら、二人が思い切って方針を変えたっていっても、
穂積さんがそれを認めることはないと思う。弓削さんがへ
こんじゃったのと同じだよ」

「うん」

「今弓削さんが上げ潮なのは、自分を取り巻く人たちが自
分と全然つながりがないから。最初がゼロからスタート出
来るからなんだ」

「分かる。警戒しなくてもいいもんね」

「なの。地獄の鬼が、出家して仏さまになったから俺を信
用しろって言ってもさあ……」

しゃらの苦笑が漏れて来た。
過激なたとえだけど、実態もそんなに変わらないと思う。

「それが、レンさんとどう絡むの?」

「穂積さんの両親が、レンさんに泣きついたんだよ」

「えええーーっ?」

僕だってわけわかんなかったんだから、しゃらにはもっと
わからんだろなー。



nice!(63)  コメント(0) 

nice! 63

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。