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三年生編 第99話(10) [小説]

僕は意外だった。
レンさんの強い依存癖を一度徹底的に壊して、自我を作り
直させる。
藤崎先生はレンさんに、自分の生命をかけて厳しいリハビ
リを強いた。
そのあまりに強烈なリハビリプランの直撃で、レンさんが
心の中から藤崎先生を外せなくなっちゃったかなーと思っ
たんだ。

でも、レンさんのさっきの話しぶりは冷静だった。
藤崎先生の遺した処方箋は、確かに強力だと思う。
でも亡くなってしまった藤崎先生が、レンさんを直接指導
し続けることはできない。
リハビリプランはレンさん自身で作らないとならないし、
今その課題にちゃんと取り組んでいるように見える。

むしろ僕の方が、レンさんと藤崎先生をセットにして考え
すぎていたのかもしれない。

それなら、僕も発想を変えよう。

「ねえ、レンさん」

「はい?」

「レンさんの言ってる依存癖。それって、僕から見ると違
うように思えるんです」

「どういうことですか?」

「人が恋しい。誰かが側にいて欲しい。自分を理解して欲
しい。受け止めて欲しい。それって、依存じゃないです
よ。人間として当たり前の感情だと思うな」

「……」

レンさんが、じっと黙り込む。

「僕が最悪のイジメを受けてた中学の頃。周囲にいる人た
ちがみんな敵に見えました。でも。そんな強烈な人間不信
があっても、高校に入った途端にばたばたっと友達が出来
た」

「そうなんですか」

「ええ。自分でも不思議だったんですけどね。だけど、今
思えば」

「ええ」

「僕はものすごく寂しかったんですよ。壊れる寸前まで」

「分かります」

ふっと。レンさんの溜息が漏れる。

「そういう寂しさが外からちゃんと見えると、それが人と
の間に立ってる壁を低くするみたいです。だからレンさん
には今、仲のいい人たちがいっぱいいるはず」

「ええ、確かにそうですね。上司や同僚には、本当に恵ま
れています」

「患者さんにもモテてるでしょ」

「おじいちゃん、おばあちゃんばかりですけどね」

あははっ。

「そうなるのは、レンさんに依存癖があるからじゃないで
すよ。今のレンさんなら、人が集まるのは当たり前だと思
う。だって、自分を見て欲しかったら、わかって欲しかっ
たら、自分を噛み砕いてとっつきやすくするしかないもん」

「なるほどっ!」

「でも、穂積さんにはそうできないんですよ」

「どうしてですか?」

「僕の中学の時と同じ。周りにいるのが全員敵に見えるか
らです」

「……」

「伯母も今のカウンセラーさんも、ちゃんと穂積さんの面
倒を見てくれてる。これからは、ご両親がしっかりケアし
てくれるでしょう」

「ええ」

「でもね。穂積さんにとっては、それは彼らが背負いこん
だ厄介な『義務』。わたしはお荷物。本当はみんな、わた
しなんか要らないと思ってる……そういう発想からどうし
ても抜け出せない。誰もが自分に敵意を持ってると感じら
れてしまう」

「……厄介ですね」

「中学の時、まさにそうでした。ほぼ一年間、誰とも口を
利きませんでしたから」

「ご両親は?」

「触れませんよ。僕はそのまんまハリネズミ」

「うわ……」

「でも穂積さんには、僕みたいに針を立てるガッツがな
い。その分、自分を削ってしまうんです」

「あっ」

「だから病気になっちゃった。僕はそう思ってます」

「なるほどなあ」


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