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三年生編 第98話(9) [小説]

「ひぃひぃひぃ、た、たまらん」

「なにそれえ!」

「おもしろいわあ」

「あはは。余裕っていうのとはちょっと違う。なんていう
か、隙間とか無駄っていうか、それが絶対になくなんない。
ほっとするんです」

「いいなあ。一度会ってみたいな」

先輩が腕組みして、稲荷山の方角を見つめた。

「こっちに帰省した時にでも行ってみたらいかがですか? 
基本、誰でもウエルカムな人ですから」

「愛想がいいの?」

「いいえー」

しゃらが苦笑する。

「なんていうか、ぶっきらぼう……うーん違うなあ。あ、
超マイペース。そんな感じ」

「だよなあ。僕ら、初対面でいきなりお寺の敷地の草むし
りさせられたもんなあ」

どてっ。先輩がずっこける。

「なんつーか……」

「でも、そのいっちゃん最初の時に言われたんですよ。さっ
きしゃらが言った業の話」

「へえー」

「あんたら、負わなくてもいい業をいっぱい背負ってるなっ
て」

「見抜かれたの?」

お母さんが突っ込んでくる。

「見抜かれましたね。普通、知らないおじさんにいきなり
草むしり手伝えって言われたって、そんなん知らんわって
無視するでしょ?」

「あ!!」

先輩とお母さんが、のけぞって驚く。

「すげ……」

「そうかあ」

「そういうところ。僕らがなんとなく出してる弱みとかエ
スオーエスを、ちゃんと感じ取ってくれる。そこが引力な
んですよね」

「うん。ほっとするんだよね」

「こうしろああしろって、一切言わないし」

「うん。厳しいけど、押し付けないよね」

「んだんだ」

僕は、光輪さんの不思議な笑顔を思い浮かべる。

「僕らが不安定な間は、それを察して光輪さんがいつでも
隙間を空けといてくれる。本当にありがたいです」

「いいことを聞かせてもらったわ」

先輩のお母さんが、ふっとモヒカン山の方に振り返った。

「切羽詰まって息が抜けない。そういう時はあるものね」

うん。
お母さんも、先輩が家を離れた今、年を取ってからの孤独
な子育てには不安がいっぱいあるんだろう。
どこかに息が抜けるところがないとね。

「ああ、そうだ。光輪さんのところも女の子が生まれたば
かりだから、ママ同士での話も出来ますよ」

「あ、それは助かる。奥様のお年は?」

しゃらと二人して、にやっと笑った。

「先輩とほとんど同じ。ハタチです」


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