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三年生編 第98話(1) [小説]

9月14日(月曜日)

まあ、一日で何もかもうまくいくわけじゃないと思うけど。
少なくとも日和ちゃんにとっては、いい気分転換になった
でしょ。今はそれでいいよね。

高校も無理に背伸びしないで、低位高がいやなら通信制で
もフリースクールでも、自分に合ったやり方を考えればい
いと思う。
そこらへんはさゆりちゃんと同じで、家族の間で話し合っ
て決めて欲しい。
斎藤の方は、寿乃おばさんがいるから大丈夫だと思うけど
ね。

さゆりちゃんも復学してるはずなんだけど、今どういう状
態か分からないから、僕らはうかつに突っ込めない。
でも森本先生のサポートがあるだろうから、大丈夫でしょ。
きっと。

中坊の時に僕がどつぼってた時には、全てが敵に見えたし
孤立無援に感じたけど。
それは、僕が自分しか見てなかったから。

たぶん、そういう時期っていうのが誰にでもあるんでしょ。
どのタイミングで、何がきっかけで、どれくらいの期間、
そういう自意識過剰のどつぼに落ちるか。
いろいろだってことだよね。

あのあと二人を送っていった父さんが穏やかな表情で帰っ
てきたから、きっといい方向に進むんじゃないかな。
がんばってね、日和ちゃん。

「さて」

人のことより自分のことだよね。
誰かがはっぱをかけてくれるわけじゃないんだ。
自分でしっかりネジを巻かないと、すぐにダレちゃう。
最後の学園祭をがっつり楽しむためにも、ここで気合いを
入れ直してがんがん行こう。

朝のホームルーム。
教室に入ってきたえびちゃんも、険しい表情だ。

「おはようございます! 九月後半は連休があります。そ
れに合わせて、予備校の短期練成講座に行ったり模試を積
極的に受けたりして、時間を上手に使ってくださいね。で
は、すぐに授業に入ります」

一切の無駄話なし。
教室を支配する空気も、完全に戦闘態勢になってる。
悪い意味じゃなく、いい意味でぴりぴりしてきたと思う。

◇ ◇ ◇

昼休み。
息抜きで、ちょびっと中庭に出た。

もう中庭作業から引退したって言っても、どうしてもこれ
までの癖で巡視と作業をしちゃう。
ほとんど商業病だよなあ、ははは。

すでに秋冬苗への植え替えが始まって、中庭の装いが徐々
に夏から離れていってる。
僕は、そのことに言いようのない寂しさを感じる。

ぽんいちに来て、僕の高校生活はずっとこの中庭とともに
あった。
僕らがプロジェクトで掲げたスローガン……中庭に心を植
え、心を育て、心をつなぐ。その恩恵を一番受けたのは、
間違いなく僕なんだ。

そのことにどこまでも感謝するとともに、そこから出てい
かなければならない無情に思わず身震いする。

そうさ。
高校は三年間しかない。
そんなのは最初から分かりきっていたこと。

そして、僕はその三年間をこれっぽっちも無駄にするつも
りはなかったし、今もない。
一瞬一秒をも無駄にしないで、高校生活っていうロウソク
を燃やし続けてるつもりだ。

でも、ロウソクの残りは少ない。
それは……僕が前へ進んでも、足を止めても自動的に消え
るんだよね。なんか無性に寂しい。




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