SSブログ

三年生編 第91話(4) [小説]

少し体調が回復して外に出られるようになったしゃらのお母
さんが、商店街での買い物から戻ってきて、狭いアパートの
部屋はすごく賑やかになった。

やっぱり、体調と気分は連動するよね。
お母さんはずっと笑顔だったし、よくしゃべった。

しゃらがはらはらしながら何度も釘を刺してたけど、新しい
理髪店の開業と新居への引っ越しは、お母さんにとってもも
のすごく楽しみなんだろう。

「あと一か月ちょっとなんですね」

「そうなの。工事も順調だし、だんだん新しい店の形が見え
てきた。わくわくするわ!」

「お母さん、はしゃぎ過ぎて体調崩さないでね」

「分かってるわよう」

お母さんが、ぷうっとむくれる。
その姿は、しゃらがむくれる時とそっくり。
うん。間違いなく親子だよなあ。

「わははははっ」

「いっきぃ、何がおかしいのよう」

「いや、そうやってぷっと膨れてる姿がお母さんとそっくり
だなあと思って」

「えええっ!」

二人して必死に否定する。

「違いますよ!」

「似てないよう!」

「ほら、そっくり」

「いっきぃ!」

ぎゃははははっ!

うん。
こうやって、屈託なく笑っていられる日が一日でも長く続け
ばいいな。
僕は、涙を流して大笑いしながら……そう祈る。


           −=*=−


しゃらのアパートを出て、真っ直ぐ帰らないで一度スーパー
に行った。

たぶん、会長の家はまだばたばたしてるはず。
母さんも、差し入れのことがあるから何か買い物リクエスト
をするだろうと思ったんだ。

電話したら、案の定。
メモしないと覚えきれないほどのリクエストが来た。
一度電話を切って、メールで買い物リストを流してもらう。

僕は、かごの中に頼まれたものを放り込みながら、ふと考え
る。

津川さんとの同居が始まったから買い物の量が増えるけど、
会長は運転免許を持っていない。
車を運転出来るのは、ご主人だけなんだよね。

買い出しがしんどくなるだろなーと……思う。

そして、津川さんは家事が苦手で……中でも料理はまるっき
りだめ。自分でそう言ってたんだ。
二人の男の子の遊び相手にはなれても、家事負担は頼めない
んじゃないかな。
あっきーがいるうちはいいけど、あっきーが会長の家を出た
ら確実にきつくなると思う。特に、会長が。

津川さんにとっても勇気の要る決断だったと思うけど、それ
は会長にとっても同じだ。同居したことのない人と一緒に暮
らしていくんだから。

互いに欲しいものを、全てぴったりに渡せるとは限らない。
いや……そんなことはありえない。
どうやって、お互いの欠片を満たしていくか。
その方法は、手探りで見つけていくしかないんだろう。

「……」


nice!(71)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 71

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。