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三年生編 第91話(1) [小説]

8月31日(月曜日)

会長のお産は、これまでの出産では一番軽かったそうだ。
病院に行って、六時間で分娩室へ。
そのあと二時間で、無事に男の子を出産。

やっぱり男の子だったかあ。
これまでのことがあるから、ご主人もほっとしたんじゃない
かな。

名前も生まれる前にもう用意してあったみたいで、病院から
メールで連絡が来た。

『ご心配をおかけしました。おかげさまで無事男の子が生ま
れました。母子共に健康です。息子の名前は司(つかさ)。
波斗司です。いろいろお手伝いいただき、本当にありがとう
ございます。取り急ぎお礼まで。 波斗 栄』

司くん、かあ。
ご主人が一文字だから、それで揃えたんだな。
栄、進、司、かあ。かっちょいいじゃん。

その名前を、白紙にマジックで大きく書いて。
それを枕元に置いて、幸せな気分で眠りについた。


           −=*=−


「うおっしゃああっ!」

気分は最高!
まだ全体にどよっている教室の中で、やたらにリキが入って
いた僕は浮いていたかもしれない。

会長のお子さん誕生は、いい区切りになる。
八月の最後の最後に、素晴らしい神様からの贈り物だ。
八月いっぱいずるずる引きずってたもやもやは、ここですっ
ぱり切り捨てることにしよう。

当然のことながら、僕以上にしゃらのテンションがむっちゃ
高い。

「ねえねえねえねえ、いっきー!」

「うん?」

「ここまで順調じゃん!」

「だな。ごっつうれしいわ。五条さんとこの千広ちゃん、光
輪さんとこの睦美ちゃん、会長んとこの司くん。みんな安産」

「だよねえ! 次は宇戸野さんとこかー!」

「片桐先輩のご両親のとこと、どっちが先だったかなあ」

「あ、そっちもあったんだ」

「んだ。まあ、めでたいことだから、どっちが先でもいいけ
ど」

「今度は忘れないようにね!」

ぎろっ!
がっつり睨まれた。

ううう、しゃらが把握してるんなら、僕にちゃんとショート
ノーティス出してよう。
てか、高校で朝のホームルーム前にする話題じゃないと思う
の。周囲の視線が、痛いわ痛いわ。

「うふうふ。出産祝いなんにしようかなあ」

「あ、それも考えないとだめだな」

「あとで打ち合わせしよ」

「うい」

えびちゃんが、僕らをちらちら見ながら教室に入ってきた。

「きりーつ!」

「礼!」

「おはようございます!」