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三年生編 第90話(4) [小説]

うちやしゃらの家だけでなく、会長の家もほとんど壊れていた。
そして、誰もがそれでいいとは思っていなかった。

ここにいてよかったと思える家にしたい。
だから、みんなちゃんと努力してるよね。
家っていうのが完成形っていうのを持たないはかない存在だっ
て分かってても、努力を欠かしてない。

壊れないと家の良さが分からないなんて、そんな悲しいことに
はなって欲しくない。
今、家の温かさや居心地の良さを満喫してる人には、それを
ずっと感じてて欲しい。

それでも。
運命は時に残酷なことをする。健ちゃんちのように。

「負けるな。がんばれ!」

僕は会長にではなく、健ちゃんたちにエールを送っていた。
父さんを呼びつけたってことは、健ちゃんたちの中だけでは収
まりがつかなくなりつつあるんだろう。

だけど。
たとえ親族でも、望んでいる家族の形はそれぞれ違う。
うちは……必ずしも参考にならないよ。

勘助おじさんが望んだ、家族の理想形。
そんなものはしょせん幻なんだって、健ちゃんたちにそう思っ
て欲しくない。口に出して欲しくない。

壊れそうなら修理すればいいじゃん。
みんな、そうしてきたんだ!

だから……どうしても自分たちの力で踏ん張って欲しいな。


           −=*=−


母さんはフルじゃなく、いつもより早めにパートを切り上げて
帰ってきた。やっぱり心配だったんだろうな。
実生に電話をかけて、会長の状況を何度も確かめてた。

こういう時には、僕らに出来ることをするしかない。
うちの分と、会長んちの分。
食事の支度と差し入れをバックアップするのは、僕にも出来る。
母さんとあっきーに電話を入れて、僕が食料の買い出しに出た。

会長の家の買い出し分を持って行ったら、げっそり顔のあっ
きーがよろっと出てきた。

「ううー。いっき、あんがと」

「どしたん?」

「そりゃあ決まってる。進くんが、超興奮モードに突入」

「ぐえー」

「ずっと泣かれるのも困るけどさー。おばあちゃんが来て一緒
に遊んでくれるのが嬉しいみたいで、もう爆裂なの」

「……ママがいないっていうのは?」

「あうとおぶがんちゅー」

どてっ!

「た、たふやなあ」

「まあね。会長いわく。あの性格は会長でもご主人でもなくて、
亡くなったお父さんそのものだって」

「ぐわあ」

「あはは! でも元気いっぱいの方がいいよ。相手すんのが大
変だけど」

「そうだよなあ。津川さんは大丈夫?」

「うれしそうだよー。なかなかこっち来れなかったから、遊び
たくても遊べなかったし」

「千葉からじゃ遠いもんね」

「うん」

「あれ、お隣さんかい?」

そう言って、進くんを抱っこした津川さんがひょいと顔を出し
た。

「上がっていったらいいのに」

「あはは。じゃあちょっとだけ。おじゃましまーす」

長居は出来ないけど、会長の家の雰囲気がどう変わったかだけ
は確かめたかった。



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