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三年生編 第82話(3) [小説]

窓際から離れた僕は、母さんの横に腰を下ろした。

「実生は、黒歴史が近いしゃらと自分を比べて、どこに違い
があるのかをしっかりチェックしてるんだよね」

「!!」

「よく気が利くし、基本的に優しい。裏方をきちんとこなし
て、決して出しゃばらない。そういうところはよーく似てる
んだよ。でも、しゃらにあって、実生にないもの」

「うん。それが我の強さね」

「そう。絶対に人に崩されないぞって、一度意固地モードに
突入するとがんとして引かない。去年の夏がそうだった」

「うわあ……」

「ただ、しゃらは自己表現が決して上手じゃないんだ。取り
繕うとか、ごまかすってことがうまく出来ない。実生はその
逆だよ。僕もそうだけど」

「ふふふ。そっかあ」

「前に実生が木村くんに付きまとわれた時」

「うん」

「もし、しゃらがそうされてたら、みんなの前で引っ叩いて
たでしょ」

「うひい。でも、確かにそうかも。そして、実生にはそれが
出来てないってことか」

「そう。家族の僕らにすら伏せてたんだから。そんな自分で
自分を削って合わせてしまおうとするやり方をどっかで変え
ないと、最後は削るところがなくなるよ」

「そうよねえ」

「それをね、しゃらを見ることで分かってきたんじゃないか
と思うんだ」

「でも……大丈夫なんだろか」

「ほらほら、もう抱え込みにかかってるし」

思わず苦笑い。

「まあ、これから今までとは違う形で試練が来るでしょ。実
生は、それをもう覚悟してると思うし」

「へ? なにそれ?」

「部活だよ」

母さんは、ぴんと来ないのか何度も首を傾げた。

「どして?」

「工藤先輩の妹っていう形容詞が、ずっと付いて回るからさ」

「!!」

血相を変えた母さんが僕を凝視した。

「僕は」

「う、うん」

「実生がプロジェクトに入ったのは、覚悟の上だと思うよ。
兄貴は兄貴、わたしはわたし。兄貴とは、目的もやりたいこ
とも違うって。自己紹介の時も、それをはっきり言ってたん
だ」

「あ、そうか。それを、これからもずっと主張しないとなら
ないってことね?」

「そ。あいつも、いつまでもガキじゃないさ。ちゃんと自分
の課題は分かってて、その上でチャレンジしてる。だから僕
は全然心配してない」

ふうっと母さんが大きな吐息を漏らして、それからすくっと
立ち上がった。

「さゆりちゃんのことがあったから、少しナーバスになって
たかもね」

「確かにね。でも、さゆりちゃんだってまだ試練としては大
したことないよ。勘助おじちゃんなら、きっとそう言うと思
うな」

「そうかなあ」

「だって、生きてるじゃん」

母さんが苦笑いした。

「まあね」

「会長の娘さんみたいに自分で命を断っちゃったら、もうど
うしようもないもん」

「うん……確かにね」

「そこにさえ行かなければ、何とかなるよ」

さて。

「じゃあ、中庭見回ったついでにどっかで昼ご飯食べてくる
わ」

「遅くなるの?」

「まーさーかー。勉強があるからね」

「おっけー」



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