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三年生編 第81話(7) [小説]

お母さんは、最初に入院してた時よりも今回の方がずっと堪
えたんだろう。表情が冴えなかった。

本当なら、お母さんに心労を掛けるような話を今しない方が
いいんだろう。
でも、伯母さんはすぐに田中さんとの接見日を設定してくる
と思う。接見の場でどたばた慌てたくないんだ。

今回の接見。
僕にもしゃらにも覚悟が要る。
僕らの心の中を整理して、きちんと気持ちを切り替えてから
接見に臨まないとならない。

麦茶を持ってきてくれたしゃらが床にペタ座りするのを待っ
て、話を切り出した。

「あの……お母さん」

「え?」

しゃらじゃなくて自分に話しかけられたのが意外だったのか、
お母さんがほけた。

「お兄さん……則弘さんは、今どうされてるんですか?」

しゃらの家族の中では、その話題はタブーだったんだろう。
しゃらは露骨に不快感を顔に出し、お母さんは悲しそうに顔
を伏せた。

「今は、中塚さんのところに半監禁状態です」

「うわ……」

しゃらがぶうっとむくれる。

「タカがね! 物置部屋に閉じ込めてるの! 少しは恥を知
れって!」

だよなあ。

「本当は、中塚さんのところに迷惑をかけたくないんだけど、
今は私がこんな状態だし、主人もいっぱいいっぱいだから」

「そうですよねえ」

ふう……。
弓削さん以上に、時間がかかりそうだなあ。
まあいい。そっちはタカと五条さんに任せるしかないね。

「そのこともあって、ちょっと相談があるんですよ」

「へ?」

今度は、しゃらがほけた。

「相談?」

「そう。時間的な余裕があんまりないんで、かいつまんで話
します」

「なんかヤバい話?」

しゃらの顔に怯えが浮いた。

「ヤバくはないよ。既定路線さ。でも、目的と方法が変わっ
たって感じ……かな」

「ううー、何がなんやら」

「今、説明するよ」

僕がさっきお兄さんの話を出したから、二人ともそれに絡ん
だことだとは思ってくれてるだろう。

「お兄さんが連れてきてしまった女の子、弓削さん」

「うん」

「伯母が後見する形で、今、心の治療に入ってます」

「少しか……良くなったん?」

「僕は会えないから、直接は分からないよ」

「え? 会えないって?」

お母さんが、きょとんとする。

「弓削さんを手酷く扱ったのは、ほとんど男たちですよ。そ
して僕は『男』ですから」

しゃらはほっとしてるけど、お母さんの顔はひどく歪んだ。
そりゃそうだよ。酷いことした男の中に、自分の息子も入っ
てるんだもん。

「弓削さん、ちょっとだけ自分の意思が出てくるようになっ
たってさ。でも、まだ赤ちゃんから離すと保たないって」

「そっか……」

「まあ、そっちは妹尾さんが密着してるし、僕らの出番はな
いよ」

「うん」

「でも、弓削さんに絡む他の厄介ごとを今のうちに片付けて
おきたいの」

しゃらが、じっと考え込む。

「弓削さんの件を早く片付けるには、二つのアクションが要
るの。つなげる、と、切る」

「分かる。弓削さんを巴さんにつなげるのと、お兄ちゃんの
線から切る、ね」

「そう。で、伯母さんにつなぐ方はもう完了なんだよ。そし
て、僕もしゃらもそこから先は何も出来ないんだ」

「うん」

「そしたら、僕らの出来るのは切る方だけさ」

「でも、もう切れてるんじゃないの?」

「切れてないよ。考えてみて」

「うー」

「お兄さんと弓削さんの間は切れてる。でも、お兄さんの方
はずるずる紐付きだよ?」

「……あ」

さあっとしゃらが青ざめた。



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