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三年生編 第77話(2) [小説]

「よし……と」

「どうだった?」

ひょいと声を掛けられて、びっくりして首をすくめた。

「あ、高橋先生。お世話になりました」

「二週間のコースだったよね?」

「はい。甘くなかったです」

「ははは。だろ?」

「最初はゆる過ぎるかなーと思ったんですけど、どんどんギ
アが上がってく。それが短期コースなんですね」

「そうさ。でも、こなせただろ?」

「一応。まだまだ課題がいっぱいですけど」

「その割には、さっぱりした顔してるじゃん」

「ええ。目標をフィックス出来たから。ここに来て、それが
一番の収穫だったかもしれません」

「そっか。県立大生物で固定?」

「固定です。滑り止めは、それよりレベルの高い私大にしま
す」

「おおお!」

高橋先生が、のけぞった。

「そうしないと、やる気と集中力が最後まで保ちません」

「おもしろいタクティクスだなあ」

「ははは」

「合格しても、私大には行かないの?」

「お金がありません」

「奨学金やバイトでしのげるだろ?」

「そうすると、大学でやりたいことに時間が割けなくなるの
で」

「かあっ! すごいなあ」

「不器用な選択かもしれません。でも、出来ることからこつ
こつ組み立てるのが、やっぱ僕の性に合ってます」

「そっか……。まあ、そうやってきちんと青写真が出来たら
強いよ。がんばって!」

「はい! お世話になりました」

「この後真っ直ぐ家に帰るのかい?」

「いえ、合宿所のお寺を掃除して、挨拶してから帰ります」

「しっかりしてるなあ」

「いっぱい大事なものをいただきましたから」

「そっか……」

「高橋先生やアドバイザーの先生にも、貴重なアドバイスを
もらいました。そういうのがきちんと記憶に残る夏にしたい
んです。灰色の受験生っていう入れ物に、なんでもかんでも
雑に突っ込みたくないんで」

高橋先生は、両腕をぱっと広げて笑顔を見せた。

「ポジティブシンキングだね!」

「え?」

「マイナスに考えると、捨てることしか出来ない。ポジティ
ブに考えられる時は、捨てるのがもったいないくらいたくさ
んのものをゲットできる」

「はい!」

「今の波を逃がさないようにね」

「そうですね」

僕は、予備校の窓の外に広がる青空を目を細めて見渡した。

「こっちに来て、いっぱい悩んだ甲斐はあったです」




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mimimomo

おはようございます^^
高校3年生の夏休み・・・もう就職が決まっていて、何をしていたかなんて全然覚えていないですぅ~ もう57年(?)前のことだものね。
by mimimomo (2018-03-22 07:43) 

水円 岳

>mimimomoさん

コメントありがとうございます。(^^)

高三の夏は、勉強三昧でした。
予備校や塾に通うカネはなかったので、自宅で参考
書や問題集とにらめっこ。あとは、模試をばしばしと。

わたしも四十年前の話になりますが、当時のことは
結構覚えているんですよ。
それだけ、高校生活が濃かったんだろうなと。(^^)

by 水円 岳 (2018-03-23 00:26) 

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