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三年生編 第77話(1) [小説]

8月9日(日曜日)

「行ってきます!」

「おう」

最後まで仏頂面だった重光さんに挨拶をして、門を出る。

講習もとうとう最終日だ。
今日の模試で全部終わり。

予備校の先生が言ってたみたいに、成績の良し悪しよりも自
分の得意分野を伸ばせたか、不得意分野を潰せたかをチェッ
クするのが大事なポイントになるんだろう。
そうは言っても、自分の成績がどのへんに位置付けられるの
かはやっぱり気になる。

模試はマークシートじゃなくて、筆記式の方。
僕の苦手分野だから、その苦手意識をどこまで克服出来たか
のバロメーターになるし。
気合い入れて行こう!

「うしっ!」

勢いよく飛び出して、ふっと気付く。

お寺の隣の家の塀の上が、そのまま空に続いているみたい
だってことに。

「あ、ルリマツリかあ……」

白と水色の花が、溢れるように咲いていて。
それが夏空をパステルで描いたみたいな世界を創ってた。

淡いブルーと白。
その軽やかさは、どんなにどっさり咲いても周りを押し潰さ
ない。

少し肩の力抜いたら?
すれ違いざまにそう話しかけられたような気がして、思わず
足を止めた。

ここに来てから、僕を警告し続けたキョウチクトウやノウゼ
ンカズラの赤やオレンジ。
僕は、それにずっと急かされてきたような気がする。

すぐに考え込んじゃう僕。
悩んで足を止めちゃう僕。
思考停止しちゃう僕。

そういう自力でなかなか進めない時に、背中をどやしてくれ
る存在は必要だと思う。
そして、ここに来てから警告や熱は僕をちゃんと動かした。

でも、今はまだエンジンを全開にするタイミングじゃない。
今からトップギアで飛ばしたら、ゴールまで保たない。

「ふう……」

そうだね。
僕はここに来たことでナビをセット出来た。
ナビのガイドが僕をどこにどんな風に導くのか。
僕はナビの画面だけじゃなく、そこにいないと見られない風
景をちゃんと記憶していかないとならないんだろう。

思い出したくない夏ではなく、懐かしく振り返れる夏にする
ために。

「よっしゃあ!」

もう一度、気合いを入れ直す。

走るな!
でも、しっかり踏みしめて歩け!

それが、僕の高校最後の夏だ!

……

「ぶふう……」

午後四時半。

模試は全て終了。
そして……一般コースとは言え、決して甘くはなかった。
舐めてかかっていた自分の甘さを猛反省しないとならない。

全く歯が立たなかったってことはないけど、講習を受けた効
果がちゃんと出せたかって言われると……心もとない。

勉強にかける総時間。
その時間にどれだけ集中出来たか。
今までクリア出来ていたその二点を突き詰めただけじゃ、あ
るレベル以上には伸びない。

えびちゃんに警告されていた英語の得点のムラ。
数学や化学の応用の伸び悩み。
それは……今回の講習でもあまり解消出来てない。

これからは、効率化をを徹底しないとダメってことなんだろ
うな。そこは、後半戦で追い込もう。

講習テキストの最後のページ。
白紙の上に、対策の必要な課題を箇条書きして、それを今回
の講習の反省点にする。



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