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二年生編 第1話(1) [小説]

4月7日(月曜日)

どんより。
雲が厚い。
天気予報は雨。降水確率八十パーセント。

ってことは今降ってないだけで、これから降るってことだ。
ちゃりで行こうと思ってたけど、バスだなー。

すっきり青空の下から2年生がスタートってことになればい
いなと思ってたけど、そうはいかないらしい。

「いっちゃん、ちゃんと傘持ってってね」

「うん。バスも込みそうだな。少し早く出よう」

「そうしたらいいわ」

新聞に顔を埋めてる父さんと、まだ寝ぼけまなこの実生を残
して家を出る。

「行ってきまーす」

坂を走って下りる。まだ、雨は落ちて来ない。
かっちんやしゃらは、いつもの時間のバスに乗るんだろう。
バス停にいるのは、これから出勤する大人たちだけだ。

朝早いから眠そうなのは分かるけど、中に疲れたような顔を
してる人がいるのが気にかかる。

仕事に行きたくない。
今日一日を乗り切るのが辛い。
そう思ってる人もいるんだろうか。

バスを下りて校門をくぐり、真っ直ぐ中庭に行く。

うん。
植え込んだ苗が茂って、花数を増やして、企画班の予想図に
近くなってきた。

カバープラントで入れたアリッサムも、きれいなパッチ模様
を見せてくれる。

去年はホトケノザとかヘビイチゴとかワルナスビとか、雑草
の名前ばかり覚えた中庭。
今年は、広々して明るい庭に変わった。

僕らは中庭を統制した。
そして、僕らは学校から統制されている。
僕らがしたように、僕らもされる。

秩序を受け入れるか、拒むか。
それは全て、僕らの意思がどこに向くかに左右される。
そして、それはまだ何も定まっていない。

僕はモニュメントに近付いて、それをぽんぽんと叩いた。

「見守っててね。がんばるから」

ずっしりと重くなった雲から、耐えきれないとでも言うよう
に雨が降り始めた。

さて。
行くか。

生徒玄関前に掲示板が立てられてて、クラス分けが張り出さ
れている。

えーと。
2Fね。一階になっちゃったな。残念。

でも、3年は全部二階から上の校舎だから、一階の教室に当
たるのはラッキーなのかもしれない。前向きに考えよう。

1Cからの生き残りは誰がいるかなー。
えーと……ぐわあ。

ミステリー班から二人。ばんことしのやん。なんつーか。
それと相馬っしときっしーか。

他のクラスの知ってる人は、誰も一緒にならんかったなー。
じんやうっちー、りんたちとも別だ。

予想通り、かっちんとなっつは割れた。
2Aと2H。よりによって、端と端だ。
あんおりも別クラス。2Bと2H。

小野寺さんは、わだっちと一緒に2C。ほっとしてるだろ。
うっちーも2Cだ。
あっきーは? 2Gね。隣の教室。りんとちっか、おっとー
がいる。
みのんとじょいなーが2Bか。てんくが2A、しきねが2Hと。

肝心のしゃらは、と。2E。こっちも隣。じんや百瀬くんが
いる。1Cでは藤野さん、田中っちが2E。2Dが、一色さ
ん、さとちゃんと……黒ヤギか。濃ゆいなあ。

ぼちぼち生徒の数が増えてきた。
みんな、クラス分けを見て一喜一憂してる。

とりあえず、教室に行こう。
自分の靴箱の位置を確認して、靴を履き替える。

教室に入る。
うーん、一階の教室のせいか、なんか寒く感じるなあ。

中では、1年の時のクラスの人たちで塊が出来て、再開を喜
びあってる。それが解れて、このクラスとしてのまとまりが
出来るまで、どのくらいかかるんかなあ。

「うーい、いっき。はよー」

「お、ばんこ。うっす。なんかミステリー班移設ーみたいに
なっちゃったね。さとちゃんが割れたのは、ちょっち残念だ
けど」

「まあ、いいんちゃう?」

静かに入ってきたしのやんが、嬉しそうな顔でするすると
寄ってきた。

「おはよー、いっき。また一緒に出来るね」

「今度はどんなことになるんかなー」

「さあ。でも、わたしはネタが多いほど楽すぃ」

ばんこがもういじるぞーって顔になってる。

「ばんこにいじられるやつぁ、かわいそーじゃのー」

いつの間にか来てた相馬っしが、そう言ってばんこを小突いた。

「けけっ。そいじゃ、手始めにおまいをいじっちゃる」

「やめいっ!」

お、きっしーも来たな。

「はよー」

「あ、きっしー。1C残党の女子はわたしらだけだ。さび
しー」

相馬っしがすかさず突っ込む。

「何言うとんねん。ばんこ一人で三人前じゃ」

ぎゃははははっ!

ここまで盛り上がった雰囲気が、ばんこの次の一言でずどん
と落っこちた。

「知ってる? うちの担任は新任の先生。で、その先生は、
強烈な人らしい」

みんなで顔を見合わせる。

「どんな風に?」

「さあ。わたしもそこまではよく知んないけど、ぽんにでは
知らん人のない有名人だったって」

むぅ。

「まあ、最初からミステリーにしててもしょうがないよ。ど
うせ、すぐに種明かしなんだから」

「んだな」

席の指定はなさそうだったので、適当に座る。
本鈴が鳴って、先生が入ってきた。
掲示板には、斉藤(さいとう)って書いてあったな。

長身で痩せてる。
年は大野先生と同じくらいだろうか。
険しい表情。にこりともしない。威圧感がすごい。

「2Fの担任の斉藤だ。すぐ始業式になる。体育館に行け。
自己紹介は始業式が終わってからする」

「移動!」

無駄口は一切ない。

始業式では、まず校長先生からの着任の挨拶と、メッセージ
があった。

「みなさん、初めまして。このたび田貫一高の校長を務める
ことになりました、沢渡延幸です」

「わたしは、ここに来る前には田貫二高の教頭をやっており
ました。校長としての経験はまだありません。ですから、先
入観を持たずに、一からみなさんとのお付き合いを始めたい
と思います」

「それは……みなさんにとっても同じことです。昨日あった
ものが今日もある。昨日出来たことが今日も出来る。そうい
う先入観を捨ててください」

「日々新しい自分を作る。それは、とてもエネルギーを要す
ることです。でも、そういうエネルギーが無尽蔵に出せるの
が、君らの年頃の特権です。それを出し惜しみしないように、
がんばってください」

……。
いきなり牽制球が飛んで来た。
短いけど、厳しい警告。

わたしたちは、これまでと同じようにはやらないよ。
そういう宣言だ。



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