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二年生編 第1話(2) [小説]

続いて、新任の先生の紹介があった。

田貫国際から英語の上林(かんばやし)先生。
田貫緑陽から国語の早稲田(わせだ)先生。
五葉北から音楽の牧野(まきの)先生。

市工から地理の桜田(さくらだ)先生。
新採の先生で養護教諭の関(せき)先生。
ぽんにから数学の斉藤先生。

そして、僕としのやんがとことん驚いたのが……。

五葉南から化学の菅野先生。そう、さもん。

ひえええ。

ベビーフェイスの菅野先生と野武士みたいな雰囲気の斉藤先
生が並んでるってのも奇妙な感じだった。

それぞれの先生が簡単に挨拶する。
その中にあって、どこまでも異色だったのが斉藤先生だった。
一人だけ語尾がですますじゃなくて、とてつもなく強圧的。
並んでいる他の先生も、少し引いてる感じだった。

始業式が終わって、教室に戻る。
さっきまでなんとなく覚えていた不安が、はっきりした形に
変わる。

みんなの口数が少なくなる。
嫌だなあ。ついてないなあ。
みんな、そう思ってるんだろう。

教室に戻って、また適当に席に着く。
先生が教室に入ってきた。

先生は教卓のところに立つなり、目の前の生徒に指を突きつ
けた。

「号令を出せ」

「は?」

「挨拶の指揮をしろっ!」

「は、はいっ!」

起立! 礼! 着席!

張り詰めた空気が流れる。
先生がじろりと僕らを睨み回す。

「俺は斉藤瞬(しゅん)だ。知ってるやつはもう知ってるだ
ろうが、俺は俺のやりたいようにやる。お前らにおもねるつ
もりは、これっぽっちもない」

「これまでずっとこのやり方でやってきた。それを曲げられ
たことは、ただの一度もない。だから、今度もそうやる。ク
ラスの運営や、行事に関してもそうだ。俺は俺のやりたいよ
うにやる。文句あるか?」

最初っから、これか。
なるほど、有名になるはずだ。
今時珍しいほど、レトロな横暴教師。

でも、僕にはどうも腑に落ちない点があった。

「文句ではないですけど……」

立ち上がる。

「納得できません。従えないです」

先生がもう一度、教室内を睨み回す。
さっきよりもっと表情がきつい。

「他には?」

女の子が一人立ち上がった。
うわ、でけー。体育祭の時に1Gのテニスに出てた子だ。
180センチ以上あるな。

「わたしも、そのやり方には従えません」

きっぱりした口調。先生を睨みつけてる。うひょー。

「他には?」

しーん。

先生が僕のところに歩いてきた。

こつこつこつ。
目の前に立ち止まる。
ぐっと睨みつけられる。

うーん。
にらめっこじゃないんだけどなあ。
思わず苦笑いしそうになって、慌てて口を引いた。

「意見を言う時は、まず名乗るものだ。覚えとけ」

あ、しまった。確かにそうだ。

「工藤樹生です」

「お前が工藤、か」

そう言っただけで、先生は今度は女の子の方に歩いて行った。

「お前は?」

「三田潮見(みた しおみ)です」

先生は僕と同じように、しばらくその子の前に立って顔を睨
みつけていた。

「工藤、三田、ホームルームが終わったら進路指導室に来い」

教卓のところに戻った先生が、めんどうくさそうに言った。

「自己紹介しろ。名前だけでいい」

え? それだけ?

端から順番に立ち上がって、名前を言っては座る。
あっという間に終わった。

「席は、今お前らが座ってる通りでいい。委員の割当は俺が
決める」

二の句が継げない。

「科目選択や移動教室については、プリントをよく見ておけ。
今日はこれで終わりだ」

また、目の前の生徒が指差されて、声を上げた。

起立! 礼! 着席!

さっさと先生が教室を去る。
一同呆然。

「さてと。一発やらかしに行くか」

しのやんがこそっと寄ってきた。

「いっき、大丈夫かあ?」

「ん? 大丈夫だよ。あの先生は相当手強い。手強いからこ
そ、ちゃんと真意を確かめとかないとね」

「た、たふだなあ」

「保岡さんの時に比べりゃ、はるかに楽さ」

ばんこもびびってる。

「うひー、さすがいっき。場数が違うー」

三田さんが近付いてきた。

「工藤さんでしたよね」

「うん。よろしくね、三田さん。去年の体育祭の時に、あん
おりコンビとコートで死闘を繰り広げたのはよく覚えてます」

「死闘って……」

わははは。

照れる三田さん。

「でも、あの先生、横暴すぎない?」

「甘いな」

「え?」

「あの先生のレトロなスタイルが、今時の生徒から受け入れ
られるはずないよね。でも先生は、自分のスタイルを曲げた
ことはないって言ってた。つまり……」

ばんこが、すかさず言葉を継ぐ。

「手の内は全部見せてないってことか」

考え込んでたしのやんが、ふっと顔を上げる。

「そうか。それで職員室じゃないんだな」

「そう。個別にじっくりプレッシャーをかけるなら、職員室
はそぐわないから」

三田さんが急に不安そうな表情に変わった。

「……」

「まあ、あとは面談の結果を見て考える。まだ判断材料が全
然足んないからね」

しのやんが呟く。

「新生ミステリー班最初の事件、か」

「事件じゃ済まないよ。僕らのこれからの一年に直結する。
解決編まで見据えて、覚悟して当たらないと」

ばんこが不思議がる。

「いっき、その割には楽しそうやん」

「パターンがはっきりしてる人は、意外に攻略しやすいもん
だよ。僕らは最初っから試されたんだ。試すという姿勢を見
せてくれる分だけ、あの先生はやりやすい」

なぜかびっくりしてる三田さん。

「すごい……」

「三田さん、前の校長だった安楽先生はどんな人だと思って
た?」

「え? 平凡なおっさんだと思ってたけど……」

「僕もそうだったけど、先生にはきれいに騙された。もの凄
い策士だよ、あのセンセ。妖怪だ。僕らは見事に手玉に取ら
れた」

一同仰天。ええーっ?!

「それに比べたら、今度の校長先生も、斉藤先生も分かりや
すい。最初から手の内をきちんと見せてくれてるからね」

三田さんに聞かれる。

「……先生は、わたしたちの何を試してるの?」

「それは自分で考えてみて。たぶん面談で聞かれると思う。
それにきちんと答えられるようにしておかないと、僕らは負
ける」

「学校に?」

「いや、自分自身に」


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コメント 6

beny

 臨場感がありますが、体験したことも加味されているんでしょうね。名前にしても知人から採ったりとか。
by beny (2012-04-06 09:26) 

koume

学校時代を思いだします^^
まるで本当にあったことのようで。。。
ますます楽しみです♪
by koume (2012-04-06 13:56) 

ラブスコール

おお!ドキドキですねっ
いっき、最後のセリフ、格好いい♪
by ラブスコール (2012-04-06 17:14) 

水丸 岳

>benyさん

コメントありがとうございます。(^^)

体験もちょっぴりは入ってますが、ほとんどが想像(妄想
とも言う(^m^))の産物です。

名前は苦労しますね。(^^;;
幸い、あまり悪人の出てこない話なので、あまり
突拍子もない名前を考えずに済んでます。(^^;;

by 水丸 岳 (2012-04-06 23:12) 

水丸 岳

>koumeさん

コメントありがとうございます。(^^)

いきなり先生と対決になりましたが、こういう構図も
先生も今は少ないんじゃないでしょうかね。(^^;;
書く方は、楽しいです。(^m^)

by 水丸 岳 (2012-04-06 23:13) 

水丸 岳

>ラブスコールさん

コメントありがとうございます。(^^)

実は最後のセリフが、この一年のいっきのテーマ
になります。
克己。古典的ですが……とても重いテーマです。(^^;;
by 水丸 岳 (2012-04-06 23:15) 

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