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三年生編 第108話(3) [小説]

僕もかっちんもなっつも兄弟がいて。
しゃらも最初はそうだったんだ。
お兄さんがまだ小さかった頃は、きっとしゃらの家も部屋
もすごく賑やかだったんだろう。

でも。
お兄さんが姿を消してから、しゃらへの露骨ないじめが始
まって、しゃらは外で遊びにくくなったんだと思う。

自分の部屋にいるのが一番安全。
だけど、そこは一番孤独な場所だったんだ。

僕は……最初にしゃらの部屋に入った時のことを鮮明に覚
えている。
女の子の部屋にしてはシンプル……っていうより、シンプ
ルすぎるくらいデコレーションが少なかった。

自分の部屋が持てた途端にこれでもかと部屋をデコった実
生とは、そこが徹底的に違ってたんだ。

なんでかなーと。
その時はちょっと違和感を覚えただけだったけど。
今から考えれば、理由がよーくわかる。

自分の部屋を自分の好きなもので埋めると、それだけで完
結しちゃうんだ。
自分の作ったお城から出られなくなる……いや、出る気力
がなくなるんだろう。

いじめの影響で人に対して不信感を持ってるけど、それで
も人との繋がりは絶対に否定したくない。
自分の中だけには閉じこもりたくない。
しゃらの部屋は、そんな微妙な心模様を正確に表していた
んだと思う。

僕もそうだったな。
自分が間違いなく認められるもの。信じられるもの。
それだけで部屋を整えたい。

でも、そんなものは実在しない。
人だけでなく、物にだって全てに表裏や盛衰があるもの。
これなら絶対と思い込んだものほど、あっさりその逆サイ
ドが見えてがっかりするんだ。

鉢植えに例えるとわかりやすい。
ものすごく欲しかった花の鉢植えは、花が終わった途端に
化粧が剥げちゃう。ただの緑色の塊にしか見えなくなる。

それと……同じ。

だから、僕の部屋には何もないんだ。
しゃらの部屋以上にね。

もちろん、そんなのは自慢にもなんにもならない。
何もない薄ら寒い部屋は、そのまま僕の心象風景だと思わ
れてしまうから。

外でどんな楽しいことがあっても、僕はそれを心の中だけ
に留めて形に残さない。
大事なものは人に渡さず、自分だけのものにしておきたい
んだ。
でもそれを他人が見ると、何にも興味を示さない無感動で
冷たいやつっていう印象になってしまう。

見えるもの。
見せるもの。
見えないもの。
見せたくないもの。

部屋っていうのは……そういう感情のディスプレイになっ
ているんだなあと、しみじみ思う。

「おい、いっき。なに、にやにやしてんだ?」

おっと、かっちんに突っ込まれちった。

「いや、しゃらがこれから部屋をどう作り込んでいくのか
なあと思ってさ」

「うふふ」

しゃらが自分の部屋をぐるっと見回して、目を細めた。

「もう……ここから動くことはないよね。今度はしっかり
わたし色に染めるわ」

「なある。そっかあ」

なっつが納得顔で頷く。



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