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三年生編 第105話(11) [小説]

「そっかあ」

「応募者は、優勝すれば賞金をもらえるだけでなくて自分
の資産価値が上がる。使役する方は、いかがわしいスカウ
ティングをせずに審査員お墨付きの美女を安く釣れる。そ
ういう目論見があれば、応募者にも選ぶ側にもいろいろな
欲が湧くの」

「不正、ですか?」

「確かにそれもある。審査員をお金で釣ったり、体を張っ
たり、経歴をごまかしたり、審査員が応募者を甘い言葉で
騙したり」

「げー」

げんなり。
さっき小熊さんから不愉快な突っ込みが入ったのには、そ
ういう懸念が含まれてたってことだよね。

「ガーデニングはミスコンと違ってうんと地味だから、欲
絡みの要素っては少ないと思うけど、それでもいろいろあ
るってことなんでしょ」

先生が、隅の方に集まってなにやら話をしている審査員の
おじさんおばさんに目をやった。

「賞を取ったということ自体は、審査の透明性や公平性が
担保されている限り素晴らしいことだと思うよ。でも審査
委員会では、受賞者がその結果をどう利用するかまでは制
限できないんだよね」

「結果の利用、ですか」

「そう。たとえば、今回グランプリを取った高校は私立校
だから、受賞歴を学校の売りにしてると思うよ。グランプ
リ受賞校で素晴らしい情操教育を……ってね」

鈴ちゃんと二人揃って、愕然。

「う……わ」

「活動の継続性が担保されていないうちのような一発勝負
のところは、結果を利用しようがないんだ。だから、審査
委員会で安心して警告に使ったの」

「うん。僕も、なんかうまいこと使われちゃったなあって」

「そう思っただろ? まあ仕方ないよ。金持ちの見栄の張
り合いを高校の庭に持ち込まれたら、コンテストの理念が
木っ端微塵だからね」

桧口先生が、皮肉っぽく口の片側だけを持ち上げて笑った。

「ははは。どうだ俺の庭は金ぴかだろうってげびた自慢を
するのは、どうしようもないスノッブ、俗物って言うの。
本当に鼻持ちならない」

ひょいと自分を指差した桧口先生が、鈴ちゃんに向かって
吐き捨てた。

「私の両親がその最たるもんでね。だから、私はスノッブ
が大嫌いなんだ」

「うひい」

鈴ちゃん、大ショック。

「いや、鈴木さんたちの応募はものすごく真っ当なの。ま
さに中庭から元気を発信さ。その発信先を学内だけでなく
て、もっと広げたい。そういうことだよね?」

「はい!」

「それは大いに誇っていいと思うよ。ただ、学校の手のひ
らの上で踊らされてる他校の部長さんや役員さんに広げよ
うとしても無駄だよ」

先生が、会場をぐるっと見回す。
一年生たちが、他校の同じ一年生たちと楽しそうにおしゃ
べりしてる。

「あれでいいってこと」

にっ!

「同じ高校生なんだからさ。馬鹿話でいいんだよ」

「そっか!」

それで、今までずっしりと肩に乗っかっていた重石がぽろ
んと落ちたんだろう。
ぺこっと会釈した鈴ちゃんが、すっきりした顔でぱたぱた
と駆け出していった。

「ねえ、先生」

「うん?」

「やっぱ……いろいろあるんですね」

「まあね。でも、全てのものには両面があるからさ」

「はい」

「そう割り切らないと、とてもじゃないけど世の中渡れな
いよ」


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