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三年生編 第77話(5) [小説]

「ねえ、あんたは何か部活やってないの?」

「やってるよー。運動部系じゃないけどね」

「へー。音楽系?」

「いや、ガーデニング」

ずどおん!
僕のイメージにまるっきり合わなかったんだろう。
彼女が大げさにずっこけた。

「それって……あり?」

「まあ、うちのはちょっと特殊なんだ」

「へー」

「僕がゼロから興した部なの。放置されてた中庭を手入れし
直して、みんなに使ってもらうっていうのが目的。だから庭
整備だけでなくて、イベントとかも組み込んでるの。園芸部
なんかとは、だいぶカラーが違うかなあ」

「おもろー」

「まあね。花好きの女の子が、ジョウロ持って水やりーみた
いなイメージじゃないっす。むしろ、体育会系に近いかも」

「どして?」

「学校側のあーせいこーせいは、最後だけ。それ以外は全部
自分たちで組み立てるから」

「おわあ!」

「それでみんなが好き勝手やったら、あっという間に崩壊で
しょ?」

「そうかあ。きちんと組織されてるんだ。でも、顧問の先生
はいるんでしょ?」

「いるよー。でも、僕らは先生に助言をもらうけど、顧問が
全体計画を立てるわけじゃない。基本、最初から最後まで僕
らの自主活動なんだ」

「すげー。そんなの聞いたことないよ」

「だろうね。僕らはほんとに部に鍛えてもらったなーって感
じがする」

「それで体育会系……ってわけかあ」

「試行錯誤ばっかだけどね」

思わず苦笑する。

「今年は高校ガーデニングコンテストに応募してて、そっち
もいい線行きそうだし。うちの高校の部としては、がんばっ
てる方だと思うよ」

「ねえ、その部って何人くらいでやってるの?」

「今は七十人くらい」

「ごわあっ!」

女の子の白い目ん玉が、ごろんと転げ落ちそうになった。

「まぢ!?」

はあ……思わず溜息。

「そうなんだよねえ。ちょっと肥大し過ぎちゃってさ。現部
長が苦労してるんだ」

「え? あんたが部長だったんちゃうの?」

「僕が最後まで引っ張ったら、僕の卒業と同時に部が潰れる
よ」

「あ……」

「後輩を鍛えて、ちゃんと部の意義と面白さを伝えて、主人
公をそっちに移す。それはうまく行ったんだけど、新入生が
あんなに流れ込んでくるってのは……予想外でさー」

「しっかりしてるんだね」

さっきまで馬力全開だった彼女が、初めて肩を落とした。

「あたしたちは、そこがだめだったのかなあ」

「そっか。後輩たちがやんちゃするっていうのは予想外だっ
たってことね?」

「うん。顧問の先生との相性の問題もあっから、あたしたち
だけじゃどうにもならないんだけどさ」

「……寂しいね」

「そうだね。でも、どっかで切り替えないとさー」

「確かになー。僕も部活がすごく楽しかった分、切り替えに
は勇気が要るもんなあ」

「部活はもう引退なん?」

「実質ね。部のお当番の義務はもう解除。でも、一応アドバ
イザーとして籍は残してる」

「そうかあ。うまくやってるなー」

「こういうのも試行錯誤なんだよね。決まりが何もなかった
から」

「そっかゼロから興したって言ってたもんね」

「なの」

さっき会ったばかりの人と話してるとは思えないほど、すご
く話が弾んだ。
それは、彼女の性格や雰囲気がそうさせたっていうだけじゃ
なく、講習や模試が終わった開放感、これから家に帰れるっ
ていう安心感、そういうのも合わさっていたと思う。





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