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三年生編 第68話(4) [小説]

「風紀委員の工藤です。前回の委員会でも、拍子抜けするく
らいに軽いネタで、がっかりしました」

どっ!
みんなが哄笑する。

「でも大高先生はちゃんと仕込みを入れてましたので、それ
だけ伝えておきます」

し……ん。

「今日の校長の挨拶でも、校則を遵守しろっていうコメント
が最後に出ましたし、大高先生の毒ガスもそこに集中してま
した。それは、学校側が厳しく取り締まるぞってことじゃあ
りません。逆です」

えええっ!?

みんながびっくりする。

「今年は、受験指導だけじゃなくて、先生方が主導する補講
や部活指導も忙しくなってます。時間外に街中を見回って、
校則違反の生徒を見張る余裕なんかないんです」

一同納得。

「おまえら幼稚園のガキじゃないんだろ? てめえのケツく
らいてめえで拭きやがれ! それがホンネ」

「つまり、夏休み期間に校則違反したことがもとでどんな悲
惨なことになっても、おら一切知らねーぞ……ってことで
す。みんな、しっかり自衛してくださいね。特に女子!」

ぐるっと見回す。

「校内でのトラブルは、学校側できちんと対処してもらえま
すが、一歩校門を出たらそこから先は何もしてくれません。
夜間の外出やバイト、旅行とか、充分に用心してください」

「まあ、三年にはあまり関係ないと思うんですが、部の下級
生なんかには、甘く見るなって注意してあげてください。よ
ろしくう!」

何度か頷いていたえびちゃんは、さっと席に戻った僕と入れ
替わって教壇に立った。

「そうね。君たちにはあまり関係しないと思うけど、予備校
の夜間コースを受講してる子なんかは、夜道に充分気をつけ
てください。出来れば友達と一緒に行動するとか、トラブル
を避ける工夫をしてね」

「じゃあ、これで一学期の授業を終了します」

日直がさっと立ち上がって声を上げた。

「起立!」

「礼!」

「ありがとうございました!」


           −=*=−


一、二年の時と違って、さすがに待ちに待った夏休みってわ
けには行かない。

終業式の今日も、えびちゃんとの面談が控えてる子がいたし、
夏期講習の情報交換をしてる子もまだ教室に残ってる。

「いっきぃ、帰りどうすんの?」

「中庭を一度見回って、それから帰るわ」

「いっきは、ちゃりで来たの?」

「んだ」

「うーん……」

「バスで来たん?」

「そうなの。タイヤの空気抜けちゃってて。ぎりぎりで家出
たから」

「そっかー」

夏期講習の合宿が始まると、しばらく会えなくなる。
しゃらは、少しでも僕と一緒の時間が欲しいんだろう。
じゃあ、ちゃり押して帰るか。

「待っててくれたら、一緒に帰れるよ」

「わあい!」

ぴょんぴょん飛び跳ねて、しゃらが喜んだ。

「じゃあ、ちゃり置き場んとこで待ってて。さっと見回って
くる」

「分かったー」

カバンをひょいと抱えて、先に教室を出る。
生徒玄関で靴を履き替え、走って中庭に行った。

「あれ?」

カードボードを持った中沢先生が、中庭の入り口のところで
腕組みしながら何か見てる。

「せんせー。何かあるんですか?」

「お? 工藤くんか。いや、こいつがどこから来たのかなあ
と思ってさ」

先生の指差した先には、四方くんたちががんばって作った手
作りパーゴラに絡まるつる植物。

「えーっ!? こんなん前からありましたっけ?」

「記憶にないんだ。まあ、鳥がタネを運んだんだろうけどね」

「へー……」

パーゴラに這い上がっているのは、結構ごついつる植物だっ
た。草じゃなくて、樹木っぽいなあ。

「これ、なんですか?」

「サネカズラ。ビナンカズラとも言うね。花が咲いてるから、
そんなに若い株じゃないな」

「うわ。じゃあ、もしかして宇戸野さんが整備された時のが
生き残ってた?」

「それは微妙。工藤くんが入学した時に、センターのところ
にはずらっと木が残ってたろ?」

「あ、そうか。それに留まってた鳥の落し物から出てきたの
かもってことか」

「そっちの可能性の方が高いと思う。きゃしゃな草じゃない
から整備の時にも抜かれなかったんじゃない?」

「抜かれなくても、切り捨てられてるんじゃ?」

「こいつはタフだよ。刈り込んでもまた芽吹く」

「ひえー」

先生が見下ろしているサネカズラの花。
まあ、地味だわ。薄いクリーム色の花弁と、赤っぽい花芯。
特にきれいではない。観賞用って感じじゃないなあ……。

「抜いた方がいいですか?」

「いや、わたしは活かした方がいいと思うよ。華道班の子が
喜ぶでしょ」

「こんな地味なのに?」

「花はね。花の後にルビー色の果実が集まった大きな集合果
が出来るの。それは、お華でよく使われる」

「わお! それじゃあ残さなきゃ」

「ははは。でも勢いつくと、手当たり次第つるをはびこらせ
て始末に負えなくなる。管理を徹底しないとね」

そっか……。
申し送りにしておこう。

おっと、しゃらを待たしてたんだ。

「じゃあ、僕はこれで」

「ああ、お疲れさん」

ばたばたばたっ!


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mimimomo

こんばんは^^
本日のわたくしのブログに、ビナンカズラの花と実をアップしています。実はまだ青いけれど^^ わたくしは花も好きですよ^^v
by mimimomo (2017-10-09 19:08) 

水円 岳

>mimimomoさん

コメントありがとうございます。(^^)

拝見しましたー。こちらのビナンカズラの実も、まだ似たりよったり
ですね。色付くのは、早くて十月下旬かなあ。(^^;;
by 水円 岳 (2017-10-10 01:41) 

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