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三年生編 第52話(12) [小説]

「やれやれ」

本当に、気分はやれやれだよ。

言っちゃ悪いけど、感情が超薄味の弓削さんは本当に同情の
しがいがない。ばかばかしいって思っちゃう。
でも、それはこれまでの環境のせいであって、今の気味悪い
姿を見てそれが全てだと判断するのはかわいそうだ。

「ねえ、いっき」

五条さんとの電話の後、ずーっと考え込んでたしゃらが、何
度も首をひねりながら話しかけてきた。

「なに?」

「ああいう人に、他に会ったことある?」

「あそこまで極端な人には初めて会った」

「そうだよねえ……」

「でも、則弘さんも、実生も、トレンドとしては同じだよ」

「あ!」

がたっ!
しゃらが座っていたベッドから飛び上がった。

「でしょ?」

「あ……あ……ああー……そっかあ」

愕然としてる。

「自分を折り曲げる。我慢じゃなくて、そうするのが当然だ
と思っちゃう。その分、自分がすり減る。僕も人と合わせよ
うとするところがあったから、偉そうなことは言えない」

「……」

「でも僕や実生は、根本はわがままなんだよ。自分を折り曲
げるのはいじめられないようにするための処世術だし、家っ
ていうわがままな自分を出せる場所があった」

「うん。お兄ちゃんもそうか」

「そう。だって、やんちゃだったってことは、親に反発心を
持ってたってことだから、むかーしから全部人の言いなりっ
てわけじゃないでしょ?」

「うん!」

「でも、僕や実生はここに来てから外でも地を出せるように
なって、八方美人的なところが薄れてきたけど、お兄さんの
場合は行方不明の間にもっとひどくなったんでしょ」

「そうだよねえ……」

「隷属型の二人で逃避行したって、共倒れになるだけだよ」

「……」

ふう。
今日のいろいろなやり取りを振り返る。

「今日は僕ら、久しぶりにがっつり衝突したけどさ」

「う……そだね」

「でも、それは僕らがこうしたい、ああしたいっていうはっ
きりした意思があるから。でしょ?」

「うん! そう」

「それが当たり前だと思うんだけどなあ……」

「ねえ、いっき」

「うん?」

「弓削さんてさあ、何が楽しくて生きてるんだろう?」

しゃらのそのセリフは、弓削さんをバカにしたり怒ったりっ
てことじゃなく、本当に心配している口調だった。

「……うん」




hosta.jpg
今日の花:ホスタHosta spp.)
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コメント 4

風来鶏

人はパンのみで生きていないと思うけど、弓削さんはパン以外に何があるのかな?
by 風来鶏 (2017-03-18 01:49) 

JUNKO

ホスタ全部開いたらぶつかりそう。
by JUNKO (2017-03-18 13:38) 

水円 岳

>風来鶏さん

コメントありがとうございます。(^^)

まさに言い得て妙ですね。今の弓削さんにはパンしか見えて
いませんし、それを得るための手段に選択肢がありません。(^^;;

by 水円 岳 (2017-03-21 00:24) 

水円 岳

>JUNKOさん

コメントありがとうございます。(^^)

下から咲き上がるので、なかなか山盛りいっぱいの咲き姿
にならないんですよねー。(^^;;


by 水円 岳 (2017-03-21 00:25) 

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