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三年生編 第103話(8) [小説]

「僕のお節介は今日で終わり。あとは、森下くんと河西さ
んで仕切って。これも貴重なトレーニングだよ。鍛える
チャンスは、仕切れる君らにしかないんだ。それならしっ
かり活かした方がいいよね?」

まだ自信なさげだった森下くんだけど、ぐいっと頷いた。

「うっす! がんばります」

「わたしもー」

「まあ、楽しんだらいいよ。しょせん委員会だから問題提
起しか出来ないし、それでいいんちゃう?」

「そっすね」

「斉藤先生は委員会では何も言わないと思うけど、聞けば
いろいろ教えてくれる。僕みたいな先回りのお節介はしな
いってだけ。しっかり利用して」

「分かりました」

ふうっ。
これで、風紀委員会も引き継ぎ完了、と。

◇ ◇ ◇

自分の部屋で、一枚の写真を見つめる。
それは、小野川の河原で見つけたセンニンソウの花。

地味だけど清楚な白い小花がびっしり咲き誇っていて、ま
とまるとすっごい雰囲気がよかったんだよね。
仙人ていう幽玄な表現がぴったりだなあと思った。

タネで増やせるみたいだし、中庭のトレリスに這わせて組
み入れるのもいいかなと思ったんだけど……。

毒草で、人によっては触るとかぶれるらしい。
あえなく却下。

でも、僕はずーっと気になってた。
センニンソウに毒があったりかぶれるって言っても、有名
なトリカブトやツタウルシみたいに強烈な存在じゃないん
だよね。
それが……ぽんいちの生徒のように感じられたんだ。

一つ一つを取り出すと、すごくお地味。
そして、ものすごくいい子でもどうしようもないヤンキー
でもないけど、でこぼこはある。
そしてでこぼこを丁寧に均すと、ややぼこの方になる。

どうしてそうなるか。
それは性格のいい悪いじゃなく、みんながゆるいってこと
にまだ甘んじてる弊害だと思う。
自分の持ってる力を育て切れず、使い切れずに、まあいい
やのままだらあっと流されてしまう。

学力とか進路は別にそれでもいいと思うんだ。
最後は自分で選ばないとならないから、自分が納得できれ
ばいいってだけの話。
問題は……倫理感なんだよね。

なかなか減らない校則違反。
もともとゆるいうちの学校に、学校の横暴に反抗するん
だっていう硬派がそんなにいるわけないよ。
見つからなきゃそれでいいじゃん……そういうダルな感覚
がまだまだ支配的なんだ。

学校側は校則だけでなく、授業のスタイル、行事の管理、
許認可、部活の統制……いろんな方向から生徒への締め付
けを厳しくすることで、今までの極端なゆるさを矯正しよ
うとしてる。
実際、新しい方針が生徒の間に浸透して、見かけの校則違
反はうんと減ってる。見かけはね。

でもそれはまだ、違反が水面の上に出るか出ないかの違い
に過ぎないと思う。

去年の学園祭で新聞部が発表した特集記事。
中身は、ゆいちゃんが警察に行って取材したぽんいちの非
行実態調査だった。

これまでみんながどれくらい校則からはみ出して、ヤバい
橋を渡ってきたか。
それは、学校側ではおおっぴらにしてこなかったこと。
高岡がしゃらにやらかしたみたいな学内での非行事実は処
分せざるをえないけど、校外での自己管理は生徒自身の責
任で……そういう方針だったからだ。

でも校則適用範囲が広がって、学校側が校外での生徒の行
動にも目を配ってくれることになった。
その代わりに校則違反が厳罰化されて、処分がくっきり
オープンになったんだ。

違反者の総数は変わってなくて、見える部分見えない部分
の落差が大きくなっただけ。僕にはそう思えるんだよね。
トータルしてみたら、実態はあまり変わらないんちゃうか
なあと。

校則違反で処分を食らうやつは運が悪い……それで済まさ
れてしまってる。
そして潜り方が巧妙になれば、それは深刻な事件や事故に
つながるかもしれない。



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