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三年生編 第69話(3) [小説]

「うーん……大丈夫かなあ」

「上がってないん?」

「いや、そうじゃないと思うんだよね」

「ほ?」

「あいつ、不器用なんだよね。どっか一点に突っ込んだり、
引っかかったりすると、そこで時間浪費しちゃう」

「ああー、学力以前じゃん。それって」

「そうなん。融通利かないとこは、前よりはだいぶマシになっ
たと思うんだけど、センター系みたいに設問多くて時間配分
が重要なやつは元々苦手なんだろなー」

「なるほどなー」

「僕から見たら、センター試験を足切りに使わない、筆記に
しっかり突っ込める私大の理工系の方がいいと思うんだけど
ね」

「それ、やつに言ってないの?」

「あいつの頭の中は、とんぺいの理学部一本なんだ」

「なんでまた」

「たぶん……たぶんだよ」

「ああ」

「そこに、あいつがものすごくこだわるものがあるから、じゃ
ないかな」

「技術とか、分野とか?」

「いや……」

「うん」

「人だと思う」

何度考えても、僕には立水がそこまでとんぺいにこだわる理
由が他に思い付かなかったんだ。

同じこだわりでも、関口のは専門分野へのこだわりだ。
自分のやりたいことが学べる中から、一番レベルが合ったと
ころをチョイスするんだろう。
その中には、一般入試を回避するという選択肢も入ってる。

関口の執着や粘着。
あれは、何にでも全部、じゃないんだよね。

どうしても欲しい。どうしても許せない。そういうものにと
ことんこだわる。

逆にそこまでこだわるためには、こだわる優先度の低いもの
は捨てないとならない。
あいつは、それがよーく分かってるんだ。
だからこそ進路の方針が固まった後で、それまで突っ込んで
た大学情報のファイルをあっさり放り出してる。

こだわりの効率がものすごーくいい。

その正反対が立水だ。
こだわってこだわって、頭からぷしーぷしーと湯気を立てま
くってる割には、遅々として前に進んでいかない。

最初僕は、それが二人の性格の違いから来るのかなーと思っ
てた。

でも、違うね。
そうじゃない。

立水のこだわりが、自分の将来に向いてない。
僕は、あいつの熱気の中からそれを見つけることが出来ない
んだ。
まるで熱にうなされてるみたいに、しゃにむにとんぺいを目
指す意味がちっとも分からない。

分野じゃなく、『その場所』に入り込むのが目的。
それが自分の興味や得意不得意と関係がないから、ものすご
く効率が悪い。

なんで、そこに行く必要があるわけ?

学校のステータスでも学問への興味でもなかったら、それは
人しかありえないじゃん。

もちろん、僕は立水に余計なおせっかいをするつもりはない。
立水が何も話さない以上、それは立水にとってのトップシー
クレットであり、外野が無神経に秘密をほじくり出そうとし
たらそれこそ袋叩きに遭うだろう。

それに僕は今、自分のことだけで精一杯だ。
そんなゴシップ紛いのネタに気を散らしてる場合じゃない。

ただ……。
あいつが、抱え込んでるものを自力で処理出来なくなる時が
来なければいいなと。
それだけ、ちょっと心配なんだよね。



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