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三年生編 第84話(11) [小説]

「ねえ、伯母さん」

「なあに?」

「みんな……それぞれに人生っていうのがあるんですね」

「そうね。それが誰にとっても誇れるものなら一番いいんだ
けど」

伯母さんが、ふうっと息をつく。

「人生はほとんど選べないし、後戻りも出来ない。だからこ
そ、いつでもやり直せるって考えないと」

「そっか。壊れちゃうってことか」

しゃらが、すっごい納得したって顔でうんうんと頷いた。

「そう。リスタートしたって考えられることはすっごく重要
よ。いつきくんも御園さんも、それがうまく出来たから今の
自分があるでしょ?」

「はい!」

「間違いなくそうですね」

「私もそうよ。そして今日、田中にリスタートのチャンスが
来た」

伯母さんの声にどすが利いた。

「どうしても、それを活かして欲しいな。佐保ちゃんのお母
さんが生きていたことを、ただのゴミにしてしまわないため
にもね」

それきり。
伯母さんが口を開くことはなかった。

気疲れから解放されて、僕の肩に寄りかかって気持ち良さそ
うに眠っているしゃら。
その横顔を見ながら、僕は今日の出来事を静かに振り返る。

たくさんの人が。
何一つ思うようにならない現実を目の前にしながら、それで
も必死に生きてる。

みんながみんな、楽しいわけでも幸せなわけでもない。
でも、少しでもいいなって考えられる人生にしたいなら。
まずは、生きていないとどうにもならないんだ。

生きてることが99パーセント辛くても、残り1パーセント
の幸せが辛さを全部引っ繰り返せるくらい大きかったら、
きっと生きててよかったなと思えるはずだよね。

僕は……そう信じたい。
どうしても、そう信じていたいんだ。



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今日の花:ゼニアオイMalva sylvestris var. mauritiana


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