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三年生編 第103話(6) [小説]

ぐいっと腕組みした森下くんが、厳しい表情で考え込んで
る。

「じゃあ……これから風紀委員会で何を話し合ったらいい
んすか? 校長先生が言ってた、モデルケースを使った
ディスカッション。そんなの、斉藤先生が仕切らないと思
うんですけど」

「ぴんぽーん。森下くん、すっごい冴えてるわ。そうな
の。あれは、あくまで助走のための小ネタだと思った方が
いい。校長のリップサービスも含めてね」

「ええー? りっぷさーびすー?」

河西さんがぷうっと膨れた。

「嘘ってことですかあ?」

「そうじゃないよ。安楽先生は来年退場するってことさ」

がたあん!
二人揃って、椅子を倒して立ち上がった。

「そ、そっか……」

「やば……」

「でしょ? 新しく着任する校長先生のカラーで、風紀委
員会のカラーが決められちゃう。その前に、ちゃんとおま
えらで色を決めておけよ。そういうことさ」

「うわ」

「安楽校長も上手に助走路を作ってくれてる。だから、今
の段階がすごく大事なんだ」

「じゃあ、これから俺はどう仕切れば」

森下くんがへたってしまった。
気持ちはわかるけど、そんなに大変じゃないよ。

「わははっ! 風紀委員会で生徒側の立場で合法的に出来
ることがあるよ。それを話し合えばいいと思うな」

「ええー? そんなのありますかー?」

制服の胸ポケットから、生徒手帳を出す。
校則のところを開いて、それを二人に示す。

「長い間、ずーっと変わってなかった校則。それを、前の
沢渡校長の時に全面改訂して、今は新しい校則になってる」

「はい」

「でも、校則見直しに関わった生徒は、生徒会の役員だけ
だよ?」

「あ……」

「生臭い話だったから、一般生徒には触らせたくなかった。
好意的に見ればそうだけど、実際は違う」

「違うんですか?」

「違う。あれは、校長一人で一方的に新校則決めるのを阻
止するための、生徒会側の妥協。苦肉の策だったの」

二人が顔を見合わせる。

「校則ってのは学校側が決めること。本来、生徒である僕
らにはタッチしようがないんだ」

「うっす」

「そうですね」

「でも、そこにとんでもないルールを盛り込まれたら、僕
らは窒息しちゃう。だから、校長の校則改訂作業を手伝う
という形にして、生徒会がこっそり生徒側の意向を盛り込
もうとしたんだよ」

「わ……」

二人揃って絶句。

「一般生徒にまで議論を下ろすと大騒動になる。だから、
一番きな臭いところはこそっとリークしてたけど、おおっ
ぴらにはやらなかった。ある意味、学校と生徒会との密約
で出来た校則って形なの」

「知らなかった」

河西さんが呆然としてる。

「でもね、作業期間があまりに短くて、穴だらけなんだ。
それは最初の風紀委員会でも話題に出たでしょ?」

「ああ、そうか。思い出しました」

「わたしもー」

「実は、風紀委員会で話し合うべき一番肝心なネタはそれ
なんだよ」


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