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三年生編 第97話(5) [小説]

だがしかし。

こう言っちゃなんだけど、僕は日和ちゃん以上のちょーネ
ガティブな面々をずーっと見続けていたから、だからなに
よって思ってしまう。

だってさあ、聖メリアを退学になった北尾さんから始まっ
て、ジェニーもネガ、うつの穂積さんもネガ、自己愛爆裂
の悪魔もネガ、最近だとブラコンこじらせのさゆりちゃん
がどつぼ。
とことんネガを見慣れると、まあそんなもんかって感じ。
その上、人格崩壊の弓削さんまでいるじゃん。

日和ちゃん本人は、この世の終わりが来たみたいな感じな
んだろうけどね。

僕がお弁当を食べ終わるまで、ずっと黙っていた二人が。
僕のげっぷの音を皮切りに重い口を開いた。

「ごめんね……」

「いや、かまわないよ。僕や実生のしんどい時に、滝乃
ちゃんたちにはずいぶんサポしてもらったからさ」

ほっとしたように、滝乃ちゃんが小さく笑った。

「まあ、いろいろあるよ。この前は健ちゃんたちが来たし」

「二人で?」

「そう。僕らは話聞いてあげることは出来るけど、どうす
るってところのアドバイスは出来ない」

「どして?」

「責任持てないもん。さゆりんのことはさゆりんが決めな
いとさ」

「……」

「僕らだけじゃなくて、信高おじちゃんだってそうだよ。
親が決めたら、さゆりんはそこから出られなくなる。これ
までは健ちゃんのコピーだったから」

「そうなんだよねー」

滝乃ちゃんが、心配そうに日和ちゃんを見つめる。
健ちゃんとさゆりんの時とは、ちょっと違うんだよね。
同性だし、年も離れてる。
現実派の滝乃ちゃんと違って日和ちゃんはユメを見ちゃっ
たんだ。菊花ちゃんにね。

菊花ちゃんには、最初からいろいろでこぼこがあったと思
うよ。
でも、その引っ込んでるとこを無視して、いいとこだけ見
てた。その反動がどかあんと来たんだ。

シスコンじゃなくて、理想主義の崩壊。
僕は……そうなんじゃないかなーと思ってる。

自分がうまく行ってない時に、うまく行ってる理想像を見
てそこに自分を重ねる。
そう、あれだ。アニメのスーパーキャラに惚れるみたいな
もんなんだろう。
自分に重ねて、二人羽織みたいにして動かしていたスー
パーキャラがいきなり悪役に寝返ったら、そらあ恐怖だろ
うなあ。

お弁当の空き容器を片付け、お湯を沸かしてお茶を入れた。
さっき寿庵で買ってきた琥珀糖をお皿に乗せて、テーブル
の真ん中に出す。

「わ! きれー! これって?」

「琥珀糖っていうお菓子。寿庵ていう和菓子屋さんで買っ
てきたの」

「まあたどシブなところを……」

「あはは。まあ、いろいろあってね。そのお店のお菓子は
よく買ってくるんだ」

「食べていいの?」

「どぞー。おいしいよ。絶対お勧め」

滝乃ちゃんは、いつものように無遠慮に手を伸ばして、ピ
ンクの琥珀糖を一つ口に放り込んだ。

「うわ……」

「いひひ。次元が違うでそ?」

「なんかあ、和菓子ってださーいってイメージあったけど、
これって……」

「そ。どこにすごい店が隠れてるか分かんないね。季節限
定のオリジナル和菓子もすっごいおいしいし、僕の一押
し、お気に入りなんだ」



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mitu

和菓子は芸術ですよね!
by mitu (2020-06-16 05:26) 

水円 岳

>mituさん

コメントありがとうございます。(^^)

世界に菓子多しといえども、和菓子の美しさに比肩する
ものはないと思っています。
訪日された外国の方も、体験で和菓子作りをするとはまる
みたいですね。(^^)

by 水円 岳 (2020-06-16 23:00) 

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