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三年生編 第97話(4) [小説]

スーパーでお弁当を買って、家に帰る。
蛇腹ゲートを開けて、うちの庭に入ったところで雨が降り
出した。

「ぎり、セーフか。ラッキー!」

母さんも実生も今日はフルタイムだから、日中は僕一人だ。
雨降りなら、外へ向いていた意識を雨で遮断出来る。
お弁当食べたら、きっちり集中しよう。

鍵を開けて中に入ろうとしたら、元気のいい声が遠くから
響いてきた。

「わああああっ! 待ってええええっ!」

「は?」

どっかで聞いた声……。
って、滝乃ちゃんやん! てことは……。

恐る恐る振り向いたら、降り出した雨を蹴散らすようにし
て駆け寄ってくる滝乃ちゃんと、ほとんどスライムになっ
てる日和ちゃんの姿が。

「あっちゃあ」

事前に連絡欲しかったな……。
と言っても、健ちゃんとこと同じで事態がすごく切迫して
るんだろう。

はあはあ息を切らしながら庭に入ってきた滝乃ちゃんが、
遠慮なく日和ちゃんをどやす。

「あんたがぐずぐずするから!」

「……」

こっちも重症かあ。
まあ、まず話を聞いて、だね。

「入ってー。僕しかいないけど」

どべ。
滝乃ちゃんがずっこける。

「あわわわわ」

「まあ、ぼつぼつ親父が帰ってくると思うけど、お袋はフ
ルタイムのシフトで、今日は夕方まで帰ってこない」

「みおっぺは?」

「あいつもきっちゃてんのウエイトレスバイト。今日はフ
ルタイム。平日はでけんからさー」

「あ、そっかあ」

「雨強くなってきたし。入ってー」

どうしたもんかって感じだった二人だけど。
ここで帰るっていう選択肢はないだろなー。
それなら、最初から来ないはず。
おっかなびっくり家に入ってきた。

ソファーじゃ他人行儀だろうと思って、ダイニングテーブ
ルの方を勧める。

「お昼ご飯は?」

「食べてきたー」

「そっか。僕はこれから弁当食うから、ちょっとだけ待っ
ててね」

「ごめんねー、いきなしで」

「いや、お盆の時に話してたし、どっかでアクセスあるだ
ろなーと思ってたから」

僕と滝乃ちゃんが話している間、日和ちゃんは完全撃沈
モード。てか、ずーっとその状態なんだろなあ……。
賑やか三姉妹って言っても、微妙にキャラが違う。

菊花ちゃんは、一度ネジが外れるとどこにぶっ飛ぶか分か
んない不思議系。
滝乃ちゃんは、見るからにしっかり者の現実派。
日和ちゃんは、名前通りのゆるふわおっとり娘だ。

で。
現状が実にその通りになってると来たもんだ。

カレシホシイ病が長患いだった菊花ちゃんは、大学進学と
同時にプレイガールに変身。
滝乃ちゃんはそれ見て呆れるだけだったけど、菊花ちゃん
を崇拝してたシスコン日和ちゃんは、菊花ちゃんの壊れ方
を受け入れられずに意気消沈。
それだけじゃなく、自分の立ち位置まで見失った、と。

よりにもよって、それが受験生の中三だもんなあ。
そらあ、家族も寿乃おばさんも心配するわ。



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