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三年生編 第96話(10) [小説]

会長が、僕の顔を見てふわっと笑った。

「やっぱりオトナになるわね。去年とは大違いだわ」

「あはは。そうなんすかね。自分ではあんまり自覚がない
んですけど」

「ふふ……」

会長は、ゲートから少し離れた道沿いの雑草を一本ぷちり
とむしり取って戻って来た。

「いつきくん。これ、何か分かる?」

「ねこじゃらしじゃないんですか?」

「あはは。一般的にはそう言われるわね。正式にはキンエ
ノコロっていうの」

「へえー」

「ありふれた雑草だけど、雑草であっても黄金色に美しく
実る。そんな風に、誰にでも実りの時期、美しく輝く時期
はあるの」

「……」

「でもね、私たちがきれいだなって感動しても、この草は
それを知らない」

「あ。そっかあ」

「御園さんやいつきくんが、輝こうとして必死にあがいて
いる今。その今が……私には輝いて見える。でも、あなた
たちが実りを実感するのはずっと後。そんなものかもしれ
ないわね」

「会長も、ですか?」

「ほほほ。そうね。私は昔だけでなく、今でもずっとばた
ばたあがいてる。自分が実ったっていう実感は、一生得ら
れないかもしれない」

「そうですか」

「でも、進と司、二粒のタネを残せた。これで、私と主人
の航海のバトンを渡せそう。それで十分」

振り返って家をじっと見つめた会長が、柔らかく微笑んだ。

「それで……実りは十分よ」




kinenok.jpg
今日の花:キンエノコロSetaria pumila


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JUNKO

キンエノコロが風になびき光を受けていろ光景は好きですね。
by JUNKO (2020-06-03 13:09) 

水円 岳

>JUNKOさん

コメントありがとうございます。(^^)

素朴なエノコログサも風情がありますが、キンエノ
コロの輝きは一段上かなあと。
もっとも、猫をじゃらす効果は同じかもしれません。(^m^)

by 水円 岳 (2020-06-04 07:14) 

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